中原武志のブログ

生きていくうえでの様々なことを取り上げます

私流生き方(71)

 マキノとの交渉も1カ月が経ち、ようやく最終章にこぎつけた。
1億円など払えないし、家も明け渡せない。何度も畳にドスを突き
さされたが断ってきた。脅すのなら交渉もなしだと言った。結果だ
け記すと、100万円を支払うことで、手形をこちらに渡すという
ことで決着した。
 手形を受け取り、眼の前で破り捨てた時、彼はこう言った「いっ
たいあんたは何者やねん?わしらの仲間とは違うし弁護士さんとも
違うようだし」と。私の身分を明かすと「洋服屋んのおやじさんか。
ええ度胸しておるな~」と言う。
 これで1件落着だが、彼とはその後があった。1年後に彼は私の店
に訪れてきたこう言った。「中原さん、わしの舎弟になってくれへんか」と。どういうことか意味がわからんと言うと、わしらの社会も人材が必
要なんや。例えはムショから出てくる奴を出迎えるのも、大勢並んだか
らええというもんと違う。どんな人間が出迎えたかと言うことが大事な
んや。 わしはな、人を殺したこともある。新聞に載っていたとおりや。
刑務所の中では毎日勉強して、経済には強くなった。それを活かして出
所後はこんな仕事しているが、これまで、厄介な問題にも負けたことは
一度もなかった。去年、あんたには負けたと思った。こんな人材をうち
の組に迎えたいと思っていたんやが、どうやろか?花くまの料亭を借り
切ってお披露目をして、せかんに紹介するつもりなんやが・・。という。
 そんなことを言われても、とても応じるわけにはいかない。何度も足
を運ばれたがお断りした。マキノは、私に負けたと言ったが、実は他に
も組長との対決に2度も勝っている。
勝つと言っても力づくではなく、柔らかに、にこやかに勝ったのだ。
彼らヤクザとの争いに力づくでは勝てない。男と男の勝負である胆力の
問題なのだ。相手も人間を見ている、これはどういう奴かと値踏みしな
がら掛ってくる。マキノの場合は、俺は殺人を犯したものなんだと、脅
しに使ってきた。しかし、私は「じゃ、私を殺して死刑になる覚悟があ
るのか」と内心でマキノの心が読めているから怖くはない。それにして
も、1か月間、毎日深夜の闘いはしんどかった。
 丁度40歳になったばかりで若さがあったから出来たことかもしれな
いが、自分をほめてやりたいほどの、愉悦感があったことを覚えている。