中原武志のブログ

生きていくうえでの様々なことを取り上げます

随筆自伝(159)私を守ってくれたのはだれなのか

   《日本がん楽会でアドボカシー団体をと願ったが》

会を立ち上げるに際して、私はアドボカシー団体であることを名刺に記した。

がん患者やその家族が告知を受けた後にも冷静でいられる人は少ない。医療を受ける際にも冷静に考えて判断できる人は少ない。患者が治療を受けるにあたって自己主張しすぎることには賛同できないが、がんの知識や医療についてほとんど何も知らない中で医療を受けることには不安が多すぎる。

アドボカシーは、「擁護」や「支持」という意味のほかに、医療の場では自らの権利を十分に行使することができない患者を代弁することも含まれている。

ところが、日本ではアドボカシーは、どちらかと言えば行政に対して「抗がん剤の早期認可」などの提言や要求をすることだと思われがちで、患者個人へのアドボカシー的支援はほとんど考慮されていないように見受けられる。

結果を先に言えば、アドボカシー団体としての活動は十分にはできなかった。日本ではまだその土壌が育っていないことを痛感して、アドボカシー的活動は、組織としてではなく組織の中の私個人が担うことにしたのである。

日本がん楽会の組織としての活動は、そのメンバー数(120名)に比してかなり大きな活動を行ってきた。その活動の内容は別に書くとして、アドボカシー的活動として、誰もが相談できる「がん電話相談窓口」を開設した。

相談電話は午後1時から深夜までと印刷物に明記していたので、多くの相談者からの電話は夜間だった。無料電話がん相談は、私自身が衰えて、一時期に寝たきりになった時点で終了したのだが、2022年12月に、久しぶりの相談があった。 適切なアドバイスができたと自負している。

娘さんが検索して電話番号を見つけたとのことであった。

《「兵庫県がん患者団体等連絡会」の立ち上げ》

書き忘れていたが、兵庫県内のがん患者会をまとめた組織をつくってほしいとの要望を受けて「兵庫県がん患者団体等連絡会」を組織し、初代会長になっていた。

この組織は、13の組織の集合体であったが、多くの代表者は、どちらかと言えば行政への要望志向が強く、患者に寄り添うことを主眼に置いている私と進む方向が違うように思われ、2年で会長職を辞めた。

しかし、国会での「がん対策基本法」の成立後、各都道府県に課せられた「がん対策推進計画」が第2次まで計画が進められていたが、最終的な第3次の計画作成などには、組織としての県への要望や、県の会議への参加などでいくらか貢献できたのではないかと自負している。

当時議論された問題は、今も解決されたとはいえないので、何が問題だったのかを少しだけ書くことにしよう。

  • がん医療の情報の不備  自分のがんについて、適切な治療が受けられる病院がどこにあるのか分からない。
  • がん医療の地域格差  都会から離れた地域では十分ながん治療が受けられない。
  • がん難民問題  再発・転移した場合に、入院を断られる場合が多い。
  • 専門医の不足  抗がん剤などの化学療法医、放射線治療医、病理医などが西欧先進国に比べて(人口比)少なく、限られた病院でしか治療が受けられない。(当時と比べて、かなり改善されてきている)
  • 医師不足、医療制度不備  ホスピス病棟が不足している。 在宅医療医も少ない。
  • 医薬品認可基準の見直し  外国では認められているのに、日本では認可されていない医薬品が多すぎる。

このように患者側から医療行政の改善を求める声が上がるのは、「医療行政」の不備によるものだが、不備というより医療行政に携わる官僚の勉強不足から来る「医療行政の失敗」と考えている。国の医療行政がこのありさまだが、県単位になるともっとひどい状態である。全国第7位の人口(当時554万人)を持つ兵庫県の場合について書いておこう。

まず、がん担当専任者というのは県庁に一人も存在しないという事実を知った。一応は疾病対策課がその任を負っているのだが、インフルエンザが流行すると、がんの話などに耳を傾けてくれる人は県庁内には誰一人いないということになる。それでも全国的に見れば兵庫県のがん対策は進んでいるといわれるほどだから、他の都道府県は推して知るべしではないだろうか。

井戸・元兵庫県知事とは、私がパース在住中に総領事がお招きくださって公邸でのディナーを2度ご一緒させていただいたご縁もある。帰国後のあるパーティーの席上で井戸知事に「兵庫県の人口規模やがん患者数から考えても、疾病対策課にがん担当者を一人配置していただきたい」と直訴したが、人事というものは知事の力だけではどうにもならないようだった。

 日本では、確率的には男性の60%、女性は40%が、がんになる確率だそうだ。2014年度の死亡者数約127万人の半数近くが、がんを基礎疾患に持っている人だと推定される。他人事(ひとごと)ではなく、各自ががん対策を考えなければならないのではないだろうか。がん対策とは、がんというものをよく知ることだと私は考えている。