中原武志のブログ

生きていくうえでの様々なことを取り上げます

随筆自伝(154)私を守ってくれたのはだれなのか

 《がん保険と粒子線治療》

現在のことは知らないが、当時は粒子線治療には健康保険がきかない。そういう意味では今も標準治療ではなく先端医療ではあるが実験的な意味合いもある。しかし、一方では粒子線治療が最先端医療であり、がん治療においては夢の治療だと信じられている部分があるのも確かなことである。

兵庫県立粒子線医療センターなどの粒子線医療施設側が「過度な実績」をアピールし続けた結果、多くの都道府県の行政者たちが、粒子線センターをつくりさえすれば、県民たちに「がん対策をやっている」ことの証明になるだろうと考え始めたようだ。

 私が過度な実績アピールだと指摘しているものは、一時期「前立腺がんの治療実績は98%」などと、兵庫県立粒子線医療センターのH院長があちこちの講演会で宣伝していたことを指している。

しかも、私たちの患者会が調査した結果では、退院4年後にPSA再発していた人が約30%もいたことからも、98%の実績云々(うんぬん)は真実ではないことを物語っている。最近では、こんなバカな数字を宣伝しなくなっているようだが、あの当時の大げさな宣伝が多くの府県に粒子線治療施設を建設させる結果につながっていることは明らかである。なぜならば、下記の医療センターのうち2カ所の建設担当委員が私に聞き込み調査に来た時に交わした内容からもうかがえるからである。

粒子線センターの設置には巨額な費用が要る。しかも世界的には粒子線医療はさほど認知されていないのは、費用効果に疑いがあるためでもある。そういう中で日本では自治体が競って粒子線治療施設建設が進められ、現在では次の施設が存在するが、粒子線医療施設が増える背景には別の要因もある。

現在の重粒子線・粒子線治療センター

 

重粒子

陽子線

都道府県

施設名称

紹介ページ

 

北海道

北海道大学病院陽子線治療センター

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北海道

札幌禎心会病院陽子線治療センター

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北海道

北海道大野記念病院 札幌高機能放射線治療センター

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山形県

山形大学医学部東日本重粒子センター

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福島県

南東北がん陽子線治療センター

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群馬県

群馬大学医学部附属病院 重粒子線医学研究センター

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茨城県

筑波大学附属病院 陽子線治療センター

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千葉県

国立がん研究センター東病院

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千葉県

量子科学技術研究開発機構QST病院(旧放医研病院)

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神奈川県

神奈川県立がんセンター 重粒子線治療施設

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神奈川県

湘南鎌倉総合病院先端医療センター陽子線治療室

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長野県

相澤病院 陽子線治療センター

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静岡県

静岡県立静岡がんセンター

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愛知県

社会医療法人明陽会 成田記念陽子線センター 

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愛知県

名古屋陽子線治療センター

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京都府

京都府立医科大学附属病院 永守記念最先端がん治療研究センター 

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大阪府

大阪重粒子線センター

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大阪府

大阪陽子線クリニック

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奈良県

社会医療法人 高清会 陽子線治療センター

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福井県

福井県立病院 陽子線がん治療センター

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兵庫県

兵庫県立粒子線医療センター

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兵庫県

兵庫県立粒子線医療センター付属神戸陽子線センター

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岡山県

岡山大学・津山中央病院共同運用 がん陽子線治療センター

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佐賀県

九州国際重粒子線がん治療センター

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鹿児島県

メディポリス国際陽子線治療センター

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重粒子治療、陽子線治療は、現在では頭頚部など特別な患者のために存在している。

 前立腺がんなどの場合などは、他に素晴らしい治療法が患者の近くの病院で受けられる

ように大きな進歩がみられる。

わたしの入院時は、300万円という大きな負担が課せられていたが、現在は安くなって

いると聞く。

前立腺がんの場合は、最近ではIMRTによる放射線治療が入院なしで受けることが出来る。

 《がん教育の必要性を痛感》

保険会社のがん保険の中には、加入すると、がんになった場合に「先端医療」が受けられると勧誘しているものがある。がんに無知な人ほど、この言葉に弱いようだ。

「がんなど全く怖くない」とある集会で言った人がいた。どうしてと尋ねる私に

『がんになっても先端医療が受けられるのですよ。粒子線治療もタダ(無料)で受けられるのですよ。一発で治るじゃないですか』 と。

 多くの聴衆がいる場で立ち上がり、このような発言があったことに驚いていると、そのように考えている人が聴衆の中の彼以外の人たちに中にもいたことを知ってびっくりしたものだ。

この断言的な言葉が一人だけのものではなく、かなり多くの人たちが、そう思い込んでいることに気づいて愕然(がくぜん)とし、正しいがん教育が必要だと感じたことが、その後の私の活動へとつながっていく。

「がん」についての正しい教育が行われていない現実は、角度を変えれば「これほど無知が恐ろしい」ものだということを、表している。

   《がん患者会を結成する》

 最初は兵庫県立粒子線医療センターを退院した人たちで、語り合う楽しい集いをと「はりま粒友クラブ」へのメンバー勧誘したのが退院直前だった。

2006年4月、神戸市北野町にある「六甲荘」で初会合を持ったが、早くも7月には再発による厳しい症状で集いに参加できなくなったS.Yさん(女性)がいた(これ以降、氏名の順にイニシャルを書く)。

私は兵庫県立粒子線医療センターのH院長に電話して尋ねた。

『入院中、あんなに明るかった彼女が、こんなにも早く再発で辛(つら)い入院生活を送ることを予測されていましたか』

と。その答えは、きわめて簡単だった。

『頭頸(とうけい)部がんがそんなに簡単に治ると思っているのですか』

だった。頭がくらくらしそうなぐらいのショックを受けた。粒子線医療センターに入院するために、県に年金を担保に300万円の入院費用を借りている人が何人もいることも患者から聞いていた。みんな、ここに入院すれば治ると信じていたはずである。

患者たちの粒子線医療に期待する強い思いを知っているだけに、院長の言葉はとても辛いものであり耐え難かった。H院長は、私たちの「がん講演会」に講師として来ていただいた時も、ある退院患者から「私が入院する時に院長は、あなたの前立腺がんはとても早期であり、100%治るとおっしゃったのに、こうして再発(彼は骨転移まで)しているのはなぜですか」と質問した時、「あなたの場合は運が悪かったのです」と答えたものだ。

 H院長の言葉は、院長として言うべき言葉だったかどうかは別として、今になって考えると、とても正直であり、無責任でもあり、未知の治療法の粒子線治療の実験に300万円を工面した患者たちへの恐るべき言葉だったと思う。当時の院長の感覚に疑問を持っている。