木村さんは、自分がしている仕事について詳しく説明してくれ、あすから仕事場を見てごらんと勧めてくれた。
工場内は広いのだが作業をしている人は八人だった。作っているのは「継ぎ竿」
(つぎざお)だった。太い部分から細い先まで四本か五本を継ぎ足して一本の竿になる。
簡単なようだがそうではない。
木村さんは(ためる)という仕事をもう一人の職人と並んでやっていた。
竹は本来まがっている。曲がっている竹を真っすぐにためていく作業だ。竹は用途ごとに
切断されている。コークスの火で竹をあぶり、ため木(木の一部を、竹が入る程度の幅に
斜めに切込みが入っている)を片手でもち、あぶった竹を反対の手で持って片眼をつむり
ながら曲がっている部分を(ため)て真っすぐにしていく。
竹を焼いてしまってはいけないし、あぶり具合も、ため方もむつかしく、これが「継ぎ
竿」製作のもっとも難しいところだよという。一番むつかしいところのようだが、理屈さ
えわかっていれば一年でマスターできそうだと思った。
翌日、竿の一番太い部分の根っこに三十センチほどの長さまで糸を巻く作業をやらせて
もらった。手作業には自信があるのでできると思ったからだ。竿がぐるぐる回る、糸と糸
の間隔があかないように、重ならないように巻いていく。
無難にやれた。このあと、糸巻きが済んだ部分に漆を同じ要領で刷毛を使って塗ってい
く。自然の漆ではなく合成漆だが、塗り終わって乾燥させると美しい。
このような工程を積み重ねる前に、竹の仕入れ、運送、乾燥期間を経て、一本一本の竹を見定め、切断し、ため作業をし、中の節をくりぬき、糸巻、塗り物なのなどたくさんの工程がある。
一本二千円で卸し、仲卸が四千円にし、小売りで一万円になるのかと考えた。高級品だと、小売価格が数万円もするそうだ。
この会社では、毎日多くのの商品が作られてはいない。手間ひまがかかるし、工程の中には熟練を要するものが多いからだ。
人を多く雇って大量生産できるものではない。今は自分ができることは手伝っているけれど、三時間ほどで終わってしまう。
私が淡路島でやってきたさまざまな作業、社会に出てから約三年間でやった仕事など、学校の帰路に見てきたいろんな作業を思い起こし、ここの作業は簡単すぎて面白みがないと感じた。