中原武志のブログ

生きていくうえでの様々なことを取り上げます

私流生き方(127)

(127)
May I help you?
暖かいまなざし
 
二学期がスタートしましたが、一学期にたくさんウミがでただけに、
思っていたより静かでした。
学校の近くに、私がよく日替わりメニューの昼食を食べることにして
いた「喫茶ユーミン」というお店がありました。夜はスナックをして
いるのでみんなと時々、飲みに行くことがありました。
私は、四十歳まで一滴の酒も飲まなかったので、お酒は好きな方では
ありません。接待とか慰労とかでなく、私一人で飲みに行くというこ
とは、今でもめったにないことです。
その夜、学校の帰りにたまたま一人で「ユーミン」に立ち寄りました。
ユーミン」のママさんは私が行くたびに、自分の子どもが中学、高校
とかなりの問題児だったこと、そのためにずいぶん苦労したこと、
しかし、現在、社会人として立派に働いていることなどを私に話し、
「だから先生、先生のところの生徒たちも信じてあげてね。きっとい
い人になるから」と、生徒のことを自分の子どものように私に頼むの
が常でした。
その夜、彼女は私の前へ来て、「この地区の一番偉い人が来ているのよ。
いつも、先生とこの生徒が迷惑かけているでしょう。挨拶しといた方がいいわよ」
「そりゃそうだけど、いきなりここで挨拶っていうのも変だろう」
「私に任しといて」といって、その人のところへ行き、「神戸暁星学
園の理事長さんから、挨拶がわりだって」と言い、ビールを一本差し
出しました。
「こんなこと、してもらういわれがない」と、その人はぶすっとした
声で言っているのです。「まずいことになってしまったなぁ」と思い
ながら、彼のそばへ行き、
「いつも生徒たちが迷惑をかけて申し訳ありません」と、学校に最も
近いところの商店街の会長さんだというこの人に挨拶をしました。
あの公民館に呼ばれた時にも、この人はいました。
彼は、意外なことを言ったのです。
「理事長はん、ようやってますなあ。子どもがグレるのは寂しいやか
らやとワシ思っとる。ワシも若い時グレたことがあるから、よう分かる。
家におっても外におっても寂しい時にグレるんや。生徒を見とったら
みんなええ顔になってきた。こんな短い期間にあれだけ生徒が変わる
のは、あんたとこの先生が頑張っている証拠や。ワシの息子も県立高
校の先生しとるから、この頃の生徒のことはよう知っとる。あんたと
こは、ようやっとるわ。えらい。これからも生徒のために頑張ったっ
てや」私はその人と、手を取り合って泣いていました。あの公民館に
呼ばれてからわずか三ヵ月ほどの間に、このような目で見ていてくれ
た人がいたとは、本当にうれしいことでした。
この人は、こんなことも言いました。
「生徒のなかに足の不自由な子どもさんがいるやろ。あの生徒のカ
バンを、毎日、登下校の時に持ってやっているグループがあるの、先
生知っとるのか?なかなかできることやない。ワシは毎日見とるけど、
感心しとるんや」
教師だって生徒の可能性を信じられなくなって去っていくのに、近所
の人の方が生徒の変わっていく姿や、助け合う姿を見ていてくれてい
たのです。私は、この時、「本当にこの学校を作ってよかった」と思
ったものでした。