中原武志のブログ

生きていくうえでの様々なことを取り上げます

随筆自伝(119)私を守ってくれたのはだれなのか

   美しいバンクーバという都市

カナダの移住審査には半年もかかるということだったが、申請書を出して、わたしの気分はすでに移住者になっていたので、どのあたりに住もうかというのが一つのテーマだった。

すでに移住している人たち数人にも話を聞くことが出来た。だれもが快適だと強調する。カニがうまいよと言う。買ってくるものじゃなく、海に竿を出しておけば釣れるのですよ。ここでは、魚は買わなくても釣れるよともいう。

 地図をみれば分かるが、なるほどと思う。 海がいい形で陸に沿っている。外洋に沿っているようであり、内海のようでもある。緯度から考えると樺太と変わらないが、年間平均温度では東京都とたいして変わらないという。 バンク―バーの町はどこへ行っても花畑だった。

 香港返還が迫ってきており、香港在住の中国人の金持ちたちが大量にカナダに移住して来ていた。バンク―バーに中国人があふれるほど大量に移住していたのに驚いた。

 すし店が多く、どの店も繁盛していたが、在住三十年のイマさんと言う日本人女性に勧められたすし店「大和」は抜群だった。 ネタの種類が多く、どのネタも新鮮で旨い。日本なら驚くような請求をされるだろうと思えるほど食べて、日本の十分の一ぐらいだったのだ。

 たまたま来ていた魚を扱っている商社マンがいろいろ教えてくれた。 

まず、これらの魚介類が近くで獲れる。冷凍して運んでくるのではないからうまい。マグロの種類が違うのだが、食べてみてうまいと思うでしょう。中とろで上等のトロの味がする。実は、日本ではトロとして売っているのです。 貝類がどれも美味しいでしょう。ここではたくさんの貝類が採れるのだから、安くてうまいのですよと、ていねいに教えてくれた。 

その話を聞いているだけで、この町に住みたいと思った。やはり食べ物の旨いところがよい。

 さて、どこに住もうか。ぼくは景色の良いところが好きなのだけどね。 私もそう思っていると紀香も言う。

これまでお邪魔させてもらったお宅は、便利はよいが景色がきれいとはいえなかった。

 市内にある、スタンレー公園は世界に誇る素晴らしい公園なので、この周辺に住むのもいいかなと思ったが、場所が良すぎて家賃が高価すぎる。

 港湾都市バンクーバーから海を隔ててノースバンクーバーがある。 バンクーバー市からライオンゲートブリッジを渡れば、そこがノースバンクーバーだった。 バンクーバーのウオーターフロント駅から出ているシーバスに乗って対岸につけば、そこがノースバンクーバーで二通りのルートがある。

 バンクーバーから見るノースバンクーバーには山があって美しい地形が見える。シーバスに乗って渡ってみた。 およそ十分ぐらいだった。

 ノースバンクーバーに着くと、そこから坂道になっていた。 坂を少し登ったところの角地に貸しアパートメントがあった。日本ではマンションというが、西欧ではアパートメントという。マンションとは、部屋が二十もあるような豪邸のことを言うのだそうだ。

 交渉をしたら貸してもらえることになった。 キッチンルームにはテーブルと椅子が備わっており、

暖房などの設備も完備だった。 ベッドマットだけあれば何とか事足りる。

 この部屋から見るバンクーバーは、絶景だった。 バンクーバー市街の夕焼けが美しく、海辺に建ち並ぶビル群の夜景が輝くようにみえる。 海に映り込むビル群の灯りが、水面に映えてなおさらに輝きを増すのだった。 

こんな美しい景色を見ながら余生を送れるのかと思うと、ぼくは幸せだなーと、唄ってみたい心境だった。

 ある日に、いろいろ世話になったイマさんが、直ぐに行けるスキー場に連れて行ってくれた。直ぐに行けるって嘘だろうと思っていた。 やや北寄りの方向に車を走らせ、坂を登っていく。家を出てから三十分も経っていない場所で車が停まった。

 車を降りるとそこは駐車場だった。 そのまま五十歩も歩いていないのに、一面に雪景色が広がっていた。 よく見るとスキー場のもっとも高い地点にある、リフトの乗り場だったのだ。

 私たちが住んでいる場所から山を見上げても、雪などは全く見えないのに、こんな近場にスキー場があるなんておどろきだった。 ノースバンクーバーには、もう一か所スキー場があると言っていた。

 スキーが大好きな人ならば、大喜びしただろうと思う。しかし、わたしは春先の登山に無理に付き合わされた時、季節外れの降雪で真っ白になったスキー場の小屋から持ち出してきたスキー板で滑ったことがあるだけなので、スキー場が近くても嬉しくはない。

 そうこうしているうちに、秋風が吹き始めた。 暖房が必要になってきた。 暖房は全館に温水暖房がいきわたっており、快適な室温調整ができるようになっていた。 そのころに住民たちから新しい知恵を教えてもらった。 駐車場が地下にあり、外の気温を知らないで外出すると、ひどい目に合うことがあるので、ベランダに寒暖計をぶら下げておき、外の気温を確かめてから服装を考えるのだという。 なるほどと思った。 それから30数年以上たった今も、神戸でそれを守っている。

 外出すると、寒く感じるようになってきて驚いた。

バンクーバー移住を考えた時に、真っ先に気温のことを考えていた。わたしの身体は寒さに耐えられないようになっているように思い続けていたからです。 いろいろ調べたが、バンクーバーの緯度は北海道よりも高いが、暖流のおかげで年間平均気温は東京とほぼ同じだと記載されていたので信じていた。

 東京とほぼ同じなら苦にしなくとも大丈夫だと、頭から信じ込んでいたのが間違いだと気がついた。 年間平均温度というものの計算方法はどうなっているのだろうか。現実とは違うことに気がついた。 食べ物の旨さも大事だが、健康もより大事なのだ。