中原武志のブログ

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2850km、感動のドライブ旅行(その2)

JPオーストラリア誌 1994年4月号
2850km、感動のドライブ旅行(その2)
 
 Yallingup Cave(ヤリナップ)鍾乳洞は1899年に、エドワード・ドーソンが道に迷った馬を捜していて発見したもので、1990年に一般公開されている。当時はローソクで照明をしていたが1904年に電灯設備が導入され、観光の名所の一つになった。広さは深さ約400m、奥行き500mで決して大きな鍾乳洞ではない。
 しかし、私がこれまで見たどの鍾乳洞より印象深かったし、心に深く刻まれた鍾乳洞となった。ここはガイドがいないので自由な時間に見ることができる。マーガレットリバーのマンモスケーブやジュエルケーブは、ガイド付のため入場する時間が、約2時間ごとに決められているのだが。
出入り口が小さく急な下りの階段になっていて、私たちが降りようとするとオージー達の集団が上がってきた。いずれもフーフーと荒い息づかいをしながら「ツーハードよ、きついわよ」と我々に言う。こりゃ、かなりきつくなりそうだぞと、我々は思わず顔を見合わせた。
急な階段を下りていくと目の前に美しい鍾乳洞が広がっていた。鍾乳洞の中は思いのほか寒くない。鍾乳洞にジャンパーは必需品。これまでの経験でジャンパーを持って入った私は鍾乳洞の中にある事務所に預けることにした。この鍾乳洞の中は年中16.7度の温度で安定しているらしい。
 照明の使い方が上手でいろいろな形成物を照らし出し、暗黒の鍾乳洞の中でのコントラストで照らされた形成物をいきいきと見せている。ここには、およそ鍾乳洞で見られる、鍾乳石、鍾乳石筍、鍾乳管流れ石、石幕、結晶、コラム、ヘリクタイト、石柱などすべてを見ることができるが、それらが暗闇の中でスポットライトに照らし出されて何か幽玄の世界に入ったような感じだ。
この鍾乳洞の美しさは、何と言ってもその色合いなのではないか。半透明で乳白色。それらは色合いとその滑らかな感触で女性的な美しさがあり、その雄大さは男性的な強さを感じさせる。
 誘導矢印にしたがって進むうち鍾乳洞の一番深い所に差し掛かり、あっという思いが一瞬私の胸の奥を駆け抜ける。証明に照らされたそれらはまるで仏像の世界だった。観音像、十六面観音像をはじめ20体ほどの仏像が置かれているような錯覚をした。それらは神秘的なものを持っていて私の心を捕らえた。じっと見ているうちになにかに引き込まれるような不思議な体験をした。仏教を信じているわけではないのにどうしてそんなふうに思ったのだろうか。
 次の瞬間、これが日本だったらどこかの新興宗教によってご本尊としてあがめられ金儲けの対象にされるかも知れないと考えたのは思い過ごしだろうか。そう言えば、この鍾乳洞では聖書の登場人物を見ることが出来ると書かれてあったが同じような思いを誰もがするのかも知れない。
 鍾乳洞は、水と二酸化炭素が結合して、炭化酸素となり石灰石を分解してカルシウムイオンとイオンに分かれ、さらに分解が進み、二酸化炭素と方解石が沈殿してできるもの。一年間に1.5mmづつ成長して出来上がる。この鍾乳洞の場合、約100万年以上の歳月を経ているとされている。このような途方もない歳月が私たちにこれらを神秘的に見せるのかも知れない。そのせいなのだろうか。私たちは疲れも見せず最後の階段を上がることが出来た。