中原武志のブログ

生きていくうえでの様々なことを取り上げます

旅のい出(10)(パリ その1)JANEWS 12月号掲載

旅の想い出(10
 パリ(フランス)(その1)
  
 パリには何度も行ったので回数は覚えていない。
最初は以前にも書いたミラノ駅から特急のコンパートメントで
モンパルナス駅に着いた時だった。到着した時の駅の雰囲気が
強烈に印象に残っており、その後、何度もパリを訪れるたびに
モンパルナス駅に行ってしまう。しかし、現在では駅舎が建て
替えられてしまって昔の風情は残っていない。
 
 最初にパリに行った時、知り合いがパリに留学中だった。彼に連
れられて歩いた3日間が私を大のパリ好きにさせたのかもしれない。
私はその後、パリを散策する魅惑に取りつかれるようになったのだ
から。
彼はカルチェラタンのアパートの屋根裏に住んでいたので、まずは
その周辺から案内してもらった。ご存じのとおりカルチェラタン
ソルボンヌ大学をはじめ大学の集中している街であり、学生の街で
ある。パリが出てくる小説では必ずと言ってよいほどカルチェラタ
ンが登場する。どちらかと言えば道は狭くごちゃごちゃとした街並
みだが、さまざまな国のレストランもあり庶民感覚の街でもある。
 
 ノミの市
 彼と一緒に行ったところで強烈な印象が残っているのはクリニャン
クールのノミの市だ。パリには3大ノミの市があるらしいが、最大の
規模を誇るのがクリニャンクールなのだし、ノミの市の歴史も古い。
地下鉄 の終着駅 だった(今は知らない)。駅を出ると辺り一面がノ
ミの市になっていた。整然としたものではなく、好き放題、いたる
ところ雑然と並べているという感じだった。思い出しても「あの時、
買っておけばよかった。残念!」と思える素晴らしいアンティー
ものも数多くあったが、破れた服や片足だけの靴まで並べられてい
たのには呆(あき)れてしまった。少なくとも当時は、目利きがで
きれば「掘り出し物」が多かったに違いない。半日歩いて回ったがそれでも回りきれないほど広大なノミの市であり、その規模においても世界一だろう。
 
 子供たちはどこで遊んでいるの?
 パリで最初に思ったのは「子供たちはどこで遊んでいるのだろう」
だった。パリという町は大阪や東京と違って中心部にも多くの住宅街
があるはずなのに、子供が見当たらない。彼に「どう思う?」と質問
しても彼も分からないという。そこで子供探しを始めた。歩いて回っ
ても子供が見つからない。だから、人に尋ねてみた…と言っても彼が
聞いたのだが。
理由は簡単だった。パリの街は一つのロータリーから道路が放射線
状に延びている。だから道路と道路との間隔が広い。道路に面して建
てられた集合住宅は、奥では反対側の道路の集合住宅と背中合わせの
形になり広い中庭が形成されているのだった。子供たちはこの広い
中庭で遊んでいたのだった。
 
 夜のレストラン
日本ではまだ少なかったファミリーレストランは、パリにはかなり
多くあった。ファミリーレストランなのに、ここにも子供の姿が見
えない。その答えは彼が知っていた。パリでは、大人と子供をしっ
かり分けて考えているらしいと(後で分かったことだが、それは欧米
では常識でもある)。だから、夜は大人の時間であり、子供を一緒に
連れ出すことなんて考えないらしいと。そのためにベビーシッターと
いう職業ができたらしいと彼が言う。そう言えば、カップルは、ほと
んどが夫婦のようだった。夫婦が夜の時間を大切に過ごしているのだ
ろう。
 レストランに入って注文するまでの時間が長い。日本のようにすぐに
「ご注文は?」なんて聞きにこない。注文してから料理が出てくるまで
が長い。だから仕方なく?ワインを飲むことになる。あちらのワインは
日本のレストランのように高価ではないのでよいが、酒に弱い私などは
「早く料理が出てこないかな」と首が長く伸びてしまう。悠長に楽しく
食事を味わう習慣が身に付いていない我が身が恥ずかしかった。
 
 昼のレストランでの「男尊女卑論議
ある日、ランチを食べていると隣席の夫婦が話しかけてきた。もちろ
ん彼の通訳を介してのもどかしい会話だったが、なかなか面白かったので、今でも鮮明に覚えている。
彼は新聞者だという。我々が日本人だと分かると「日本は男尊女卑
の国だ」と痛烈な批判をしてきたので、反論が大変だった。話すう
ちに「日本はどこにあるのか知っているか」と尋ねると、フイリピン
の東の方だと言う。地図上の日本の位置も知らないで批判だけは厳
しい。話すうちに、私が次のようなことを言った。「男尊女卑だと
言うが、日本では80%以上の家庭では、女性が財布を握っている。
フランスではどうか」と尋ねた。その途端に形勢が変わった。彼は
「そんな話は信じられない」と言い、奥さんは「その話が本当なら、
日本は男尊女卑とは言えない。私など、決められた家計費にあくせく
しているし、彼が出張の時に浮気をしないようについて行くために、
家計費を節約して貯金している。フランスの場合は、99%以上、男性
が家計を支配している」と切々と訴える。
 日本では、女性が財布を握り、奥さんがご主人の小遣いまで管理して
いる場合が少なくないと言うと、「これまでに聞いた日本人論とあまり
にも違っていて信じがたいが、本当ならうらやましい」と言う。徳川時
代の武家以外では、どちらかと言えば女性上位なのが日本社会だと言っ
てよい。江戸のように階級がうるさくない地方では、女性の力は大き
かったし、今ではそれが強くなっているのではないかと思う。会社や
役所では男尊女卑の傾向が残っているが、江戸幕府の名残だろう。庶民
は女性上位なのだ。最近の昼間の喫茶室、レストランなどを見れば、
それが歴然と分かるはずである。
 パリで新聞記者夫婦と「男尊女卑論」をやろうとは思ってもみなかっ
たことだが、何よりも通訳をした彼は大変だっただろう。まだ留学1年
という頃だし、フランス語が流ちょうだとは言えない時期でのことだっ
たのだから。その後、彼は私の従妹と結婚ている
 彼には、3日間パリを堪能させてもらった。普通の旅行では経験で
きないことがたくさんあった。だからこそ、次回からパリには自信を
持って行けるようになったと思う。