ドライブ旅行3
《世界一高い樹木》
翌日ペンバートンへと向かう。出発前からの期待の一つだったカリーフォレストを見るためである。ドライブウェーがラウンドできるようにつくられていて、一回り20分くらいで回って来られる。このあたりは西豪州の中では雨量の多いところで樹木がよく育つらしい。カリー(ユーカリの一種)は200年以上を経ている大木が多い。
それにしてもマーガレットリバーからオーガスタ、ペンバートンへ通じる道は西オーストラリア一般の道路とかなり雰囲気が違っていた。ペンバートン周辺の道路は、まるで樹木のトンネルの中を走行する感じだった。
一路、家内が憧れているデンマークへと向かう。デンマークはとてもいいところだよと多くの人たちに聞かされていたようである。
《デンマークは素晴らしい》
デンマークは、家内が「早く連れて行って」と以前から懇願していたところでもあり、車が町に近づくにつれ、何となくワクワク期待するものがあった。
思ったよりも小さな町だった。小高い丘を背負って海に向かってなだらかな傾斜があり、家族的な避暑地の雰囲気を漂わせている。とりたててびっくりするようなものは何もないなと車を進めるうちに、河口付近に忘れられない風景があった。
河口にはとても自然な形で岩がいくつものプール状の水たまりを形成していて、清流がたっぷり流れていた。
たくさんの家族がその「プール」の中で泳いでいた。子供たちは、安心して泳ぎ戯れている。その風景を見ながら、「いいなー、こんなところで孫を遊ばせてやりたいなー」と田仲さんと私がつぶやく。
本当は、孫ではなく、私自身が少年のころにこんな素晴らしい体験をしたかった。オーストラリアでは、泳ぐ場所に不自由はしない。しかし子供連れで水遊びをするのに、これほど情緒たっぷりの場所も少なかろうと思う。
町の中心に、この町では有名なワイナリーがある。そこでは工芸品の展示や即売もされていた。その中に、どこかの工芸展で最優秀賞を得たという木の器があった。直径40センチほどの果物鉢と言えばいいのだろうか。ユーカリの木の一種だと思うが、大きな木材を、くり抜き削って仕上げたのだろう。網目模様の素晴らしい木目をなめらかな曲線に仕上げたこの器をどうして買い求めなかったのだが車のトランクに入れると割れてしまうかもと諦めた。いまになっても悔しい思いがしている。その後、同じような器をあちこちで目にしたが、あれほど素晴らしい作品には巡り会えていない。良い作品に出会った時には躊躇(ちゅうちょ)なく買い求めるべきだったのだ。
デンマークに宿泊予定を組まなかったことも悔やまれる。次の機会にはぜひゆっくりしてみたいところだった。
《アルバニーへ》
車は一路アルバニーへと向かう。アルバニーはパースから真っすぐ南極海方面に行けば約400キロ、車で3時間少々であり、アルバニーに別荘を持っているという人も多い。パースよりも少々涼しいので避暑という目的と都会からの脱出という目的もあるようだ。
街は比較的大きいが、当時は市ではなく町だった。街のセンター通りには落ち着いた建物が立ち並んでいて、坂道を下っていくとそのまま海に突っ込んでしまいそうな感じになっている。
不平を言うなら、この海に突っ込んでしまいそうな場所に、何か洒落(しゃれ)たものが欲しい。せっかくの素晴らしいロケーションが生かされてないようでもったいない。
アルバニーにはエスペランスからの帰路にもう一度立ち寄ったけれど慌ただしい日程の中で多くを見ることができなかったが、カニを食べに行った。これまでに書き忘れていたが、パース周辺では美味しいカニが採れる。日本のワタリガニとよく似た姿で味も近い。以前に友人たちとカニとりに行ったことがある。橋の上から鶏肉などを入れた金属製の籠をたらし、しばらく待ってあげると
カニが入っている。取り出してゲージを使ってサイズを計り、小さいものはそのままリリースする。
カニは、子供のころから池のほとりで何度も捕まえているので扱いには慣れているはずなのだが、一匹のカニが手首を大きくひねって、わたしの指にかみついたのだった。とても痛かったのでよく覚えている。
さて、カニを食べさせてくれる店があると聞いて、近くだと思っていたら結構遠くまで行くことになった。 大きな釜で茹でてくれたが、時間をかけすぎてうまみがなくなっていた。カニは自分で茹でないとだめだねと話し合ったが、とんだ寄り道になってしまった。しかし、近くにクジラの博物館があり、見ることが出来てよかった。