第2の人生(6) 家を探す
約1カ月間のパース調査旅行には満足していた。何よりも第1の
移住地に選んだカナダ・バンクーバーと似たところが多かった。
湾と川との違いはあるが、水面を挟んだ景色として似通った部分が多かった。
スタンレー公園とキングスパークという巨大な公園が市の中心にある点も
同じだった。街が整っていて美しい点も同じだった。
総領事館にリタイアメントビザの申請をしたが、申請書類を整えるのは
容易ではない。しかし、カナダ政府あての申請よりは簡単だった。あとは、
いつビザが発給されるかを待つばかりだった。
パースの不動産会社との仮契約の日までにビザが下りるかどうかが、問題
だったが、もしもその日までにビザが下りなくても、土地の売り物件はたくさん
あるし、家を購入するという方法もあるので、気にはしていなかった。
不動産会社との約束の日までに、ビザが下りなかったので、不動産会社に
FAXを送り、とりあえず私の銀行口座(日本の)宛てに手付金の返済を要求
したところ、1週間ほどで送金されてきた。
この話を、あとで現地の日本人たちに話すと「よく返金してもらえたね」と
みんなから驚かれた。辞書を片手に作った契約書だたのに、手落ちはなかった
ことの方が、自分なりには驚いてはいたが、返金されないのが普通のように
言う人たちの方がおかしいのではないかと思ったものだ。
移住してから、多くの人たちから聞かされた話では、英語に自信がないために
日本人を頼り、そして騙された人が多かったことである。
英語に自信がないといっても、移住しようというのなら、家の購入ぐらいは
人を頼らずにやらなければと考えている。
だが、パースに移住してからは、正義感から同胞を騙す輩との戦いの日々が
始まったが、内心では「騙される方も悪いのではないか」とも思っている。
どこの誰かもわからない人を、同じ日本人だからと言って、頼る方にも問題が
あるというものだ。
外人だから悪い、日本人なら安心という問題ではない。人はみれば分かるはずだ。悪人は悪人らしい要素を醸し出している。それを見破る力のない人が
外国に移住しようと思う方が問題ではないだろうか。
私の場合、仮契約をしたのはパースの大手不動産会社の、マレーシアチャイ
ニーズ社員だった。どう見ても、人を騙すタイプではなかった。
パースに着いたその日に、彼に電話をして、あの土地は買わないが、家を買い
たいので、あなたに手伝ってほしいと依頼した。
翌日から、家探しを始めた。彼の案内で何軒も見て回ったが気に入った物件が
ない。彼の案内するサバーブは、パースから南の方角ばかりである。調査旅行の
際に北方面が気に入っていたので、北の方を案内してほしいというと、子供たち
を学校に迎えに行かなければならないので、我家の近くの南地方しか案内でき
ないという。
それじゃ、私たちが探して、気に入った物件があれば、先ずあなたに連絡する
から、待っていてほしいと告げた。ご存じだろうが、日本でも外国でも、最初に
物件案内した人に手数料が入る。だから、車を走らせて、気に入った売り物件を
見つけても、その看板に書いてある業者に連絡してしまうと、彼(マレーシア・チャイニーズ)には手数料が入らない。だから、中に入って物件を見たいと思ったら、
彼に連絡して、彼からその物件を扱っている業者に連絡してもらうことにしたのだ。
それは、彼と私たちとの信頼関係を築くことにもなった。