中原武志のブログ

生きていくうえでの様々なことを取り上げます

私流生き方(111)

(111)
 出産時との関わりを調査
 
面接と再試験テストの答案内容を見れば、その生徒が抱えている
さまざまな問題が浮かび上がってきます。国語の単文が書けて
いない子は、ほとんどが情緒面に問題を抱えています。当然、
数学の文章題もできていません。言葉を選びながら誕生の瞬間、
いや、妊娠時にまで遡って質問をしていきます。個人情報が強く
叫ばれているおり、こんな質問は大問題ですが、何かが原因かも
しれないという思いから、両親に尋ねてみることにしました。
結果から言いますと、LD(学習障害)かもしれないと思われる
生徒のうち、約半数が出産時以上がありました。
「妊娠中の異常は?」
「鉗子分娩などの異常出産は?」
「へその緒が首に巻いていましたか?」
「生まれてすぐ『オギャー』と泣きましたか?」
「三歳児までに、強いひきつけはなかったですか?」
「高熱が続いたことは?」
受験生によっては、カウンセリングだけで一時間が終わってしま
います。
ほとんどの受験生は、家庭で門限も決められていません。門限を
決められている生徒は、毎年十名程度しかおりません。家庭内で
決まった仕事を子どもに与えている親は、皆無に等しい状態です。
門限の大切さ、家庭内の作業分担の必要性などを、毎日、朝から
晩まで、相手が替わるごとに内容も変化させながら話して面接を
繰り返します。
「理事長は根気がいいですね」と教頭は言いますが、根気ではなく
受験生に対する愛情が、このハードな作業に耐えさせるのでした。
面接の様子を誌上に再現すればいいのですが、一、二名分の再現
だけでも誌面が埋まってしまうことになるのでやめましょう。
二月の初めから受験する生徒は、「他校を受験しても受からない
ことが確実」という生徒ばかりですから、テスト結果は一様に悪
いのが普通です。平成二年を例にとれば、第一回の試験日に受験
した生徒が七十名。そのうち、かろうじて合格した生徒は、わずか
十五名でした。残りの五十五名の生徒と学校の両方に「再試験」の
通知書を送ります。この作業もなかなか手間のかかるものですが、
それ以上に「再試験」というシステムに不慣れな中学校からの問い
合わせに答えるのも、かなりの手間を要します。再試験してだめな
場合は、再々試験と、チャンスを与え続けます。
試験のたびにその内容を見て、一人一人の受験生に「今後の学習
メニュー」を手渡し、どの教科のどこを勉強すべきか、例えば
「小学校四年生の算数からやり直しましょう」と、かなり具体的
な指示を与えます。
何度も何度も再テストの通知を受け取った中学校の先生のなか
から、「何回もテストを受けさせて、最終的にとってくれるので
すか。後から受験する成績のいい人と振り替えるつもりじゃないん
ですか」
と、きついお電話をいただく場合もありますが、今では、ほとんど
の中学校の先生が喜んで下さるようになりました。
私は先に受験した生徒を優先させます。一週間とばしで、再・再々
と最高4回まで受けた生徒もいました。そのうち二名は不合格で
したが、この二名の場合は、再テスト段階で合格することが難しい
旨を中学校にお知らせしています。
数学のテスト(小学校の算数部分と中学校での数学部分の二枚の
テスト)が、20〜〇点だった生徒がテストを重ねるに従って、
80〜50点と成績が伸びていきます。もちろん、再テストのた
びにどの教科も問題が変わりますし、文章題を多く出題しますので、
理解していないと解答しにくいようにしてあります。
再テストのたびに成績が上がってくるのは、保護者の方の努力も
あるでしょうが、私の知るかぎり、中学校の先生の必死の努力が
実る場合が多いように思います。
中学校の多くの先生から、「あの子が顔色を変えて勉強に取り組む
姿を初めてみました。今度の再テストの件では、私は新たな勉強を
させてもらいました。私たち教師は、どうしても、成績のよくない
生徒をおいていってしまっているのですね。もっと早く、彼らに手
を差し伸べてやっていたらと思います」と、再テストについての感
想をいただきます。その言葉はとてもうれしいことですが、彼らの
ことを充分見ることができなかったということは、中学校の先生の
立場に立てば、仕方のないことなのです。なぜなら、こんなにまで
して入学した生徒が、一カ月も経たないうちに、またまた勉強嫌い
になってしまって、授業に参加しなくなってしまう場合もあるから
です。
勉強嫌いという問題は、中学校の段階ではもう遅く、少なくとも小
学校の段階で対処しなければならないことだと考えます。親や小学
校の先生が、小学校のなるべく低学年の間に、L・D児(教えに
くい子)について充分な観察と対処を講じ、二次的、三次的な問題
に発展させないことが肝要でしょう。
もちろん、それらのことを、親に期待するには、あまりにもL・D
に対する認識の広がりがなく、無理なことでしょう。また、小学校
の先生たちのL・Dに対する認識も充分とはいえませんし、たとえ
認識が充分あっても、一人の先生がなしうることには限りがあり
ます。
移り変わりが激しく、プレッシャーも大きくなっている現代社会に
おいては、子どもを取り巻く環境も大きく変わってしまいました。
親だって、すっかり変わってしまいました。そのようななかに
あって、勉強嫌いな子どもはどんどん増えています。このL・D
児たちは、勉強嫌いになる要素を持っているだけであって、本人
の責任ではない場合が多いのです。
このような子どもが大きくなってきた現在、そのための対策を
政府が中心となって考えていかないと、日本の将来に暗い部分を
作ってしまうことでしょう。