中原武志のブログ

生きていくうえでの様々なことを取り上げます

随筆自伝(165)私を守ってくれたのはだれなのか

  《ついに寝たきり老人となってしまった》

 二か月間の激痛が酷すぎたが、3月23日に、ついに起きられなくなった。座ることもできない。≪僕が食欲をなくしたときは死ぬ時だな・・≫と、普段は食欲旺盛の私が笑って語っていたものだったが、その日がやってきた。 妻も、食べられているうちは大丈夫よと言っていたものだが、さすがに食欲を失ったわたしを見て、もう終わりかと思ったようだ。

まったく食欲がなく、わずか三日であばら骨が理科の教室にあるような骸骨のようになった。信じられないほど急激に痩せて行った。

 急速に激やせが続いて、二週間後にやっと体重計に乗ってみると18キロもやせていた。

介護保険という仕組みの欠陥点は》

 2000年に介護保険制度が出来た時から、ずっと支払いを続けてきた。いつかは世話になるときもあろうかと思ってきた。ところが、いざという時が来たのに、どうしてよいか分からない。たぶん半年もしないうちにダウンするだろうと予測できたので、介護保険認定の申請をした。医師からの報告、調査員の聞き取り調査などを経て、県の査定システムで検討されて認定結果が出る。

 調査員は、聞き取り項目全般の質問をする。わたしは、現状を述べ、もう限界に達していて、いつ倒れても不思議ではないという旨を述べた。

  そして認定結果は「要支援2」だった。現実的には、ほとんど用をなさない。要支援2では、この辛い現状に何ら手を差し伸べてはもらえない。

 調査を受ける以前から、知り合いの数人から「調査の時には呆けたふりをしないとだめだよ」とは聞いていた。 だが、私にはそんな芝居めいたことはできないから、事細かく分析してていねいに答えたのだが、自立してできているとみられると、どんなに体調が悪くても「介護」が受けられる認定にはならないという重大な欠陥が介護保険にはあることが分かった。

 もうだめとだという時期に認定見直しを要求した。 見なおし認定も、調査員が来てから決定するまでに一か月間かかる。

 3月末に、座ることも立つことも出来なくなって寝たきり状態になったころに、見直しの決定が届いた。 なんと、「据え置き」認定だった。 見直されることはなかった。「寝たきりになっているのに、据え置きとはひどいじゃないですか、直ぐに再度見直し申請してください」とケアマネージャーに電話すると、見直し決定があったばかりですので、申請はできませんと彼女は言う。(あとで分かったことだが、これは彼女の不認識であったのだ)

 あちこちに手を回して、ようやく再度見直し申請にこぎつけたものだ。

調査員が来てくれても結果が出るまでにまた一か月間かかることになる。それまでは何の介護も受けられないのです。 

妻は、脊柱管狭窄症で痛む体で寝たきりになった私の身体を拭いてくれた。それがどれだけ大変なことかがよくわかる。 わたしは着替えることさえできない体になっていた。 妻の身体が心配だった。 これ以上妻に負担を掛けたら倒れてしまいかねない。 早く介護の手助けが欲しい。せめて、この前の申請時に要介護認定にしてくれていたら、妻の負担が少なかったのにと、ベッドに横になりながら腹立たしい思いだった。

倒れてから再申請をして調査員が来て、一か月後にようやく「要介護4」の認定になって、週に二度、体を拭いてもらえるようになって、着替えもさせてもらえた。 この一か月間半の遅れが、いま思っても腹立たしい。 調査員というものが、いかに役立たずの役割かと思った。 調査員は決められた項目を50ほど質問し記入していくだけだから、仕方はないのだが、調査方法の仕組みが悪いのだと思える。

『いまはどういう時期ですか』という問いに、全く別の季節を言えばよいらしい。「ボケたふり」とはなんと馬鹿らしいテクニックなのだろう。

介護保険は、基本的に「認知症で困っている人を助ける」ことのようだ。それも理解できる。しかし、自立している人の中にも、介護が必要だと見抜く能力が調査員に欲しいものだ。

  《意地で回復への道を歩む》

妻も医師も周囲の人たちも、わたしは死ぬものだと思っていたようだが、わたしは、このままだと妻がダメになってしまうから頑張らなきゃと思って、奇跡の人と言われる回復(まだまだ激痛は続いている中で)をして、2022年五月に介護を返上した。要介護4の期間はちょうど一年だった。

要介護4を返上するような人はとても珍しいケースと言われるが、自分のことが自分でできるようになれば介護返上をすべきだと思っている。

再び寝たきりになる日が来るかもしれないが、その時に、どのような対応がとられるのだろうか。

介護保険制度運営基準を二つのタイプに変更すべきだとおもっている》

現在は、認知症以外で介護を受けるのはとても困難な仕組みになっている。 私の経験から思うに、「認知症状に適用」と「自立意識はあるが介護は必要な人に適用」に分けての審査がいるのではないかと考えている。 審査方法が偏っているために後者の人たちへの援護が遅れているのはとても残念だ。 言い換えれば認知症患者を増やすことにもつながっているのが介護保険だともいえる。

 《認知症患者と軽症認知を含めると1000万人越》

 日本には、認知症患者が推定で460万人、軽度認知障害(MCI)550万人がいるとされています。 2030年には認証患者が523万人、軽度認知障害者593万人が予測され、2040年には認知症患者数584万人、軽度認知障害者数613万人と予測値が発表されています。

  30年前に豪州人から「日本の平均寿命は世界一だと自慢しているが、日本では認知症患者やベッドの上にいる人が多いのではないか、それでは平均寿命の長さを誇る意味がない」と言われたことがある。

  現在の介護保険制度では、認知症患者や軽度認知障害者を増やすことになってしまうだろうと考えています。 国民の一人一人がもっと介護保険制度に関心を持ち、制度改正に積極的にならなければ、介護保険制度はよくならないと思っています。