中原武志のブログ

生きていくうえでの様々なことを取り上げます

随筆自伝(113)私を守ってくれたのはだれなのか

 これまで連載に掲載してきたものは、原稿では第三章の終わりまでとなっていて、これ以降は第四章ということになります。

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 いろいろ身の回りがひっくり返り始めて、 順調だったものがどんでん返しになるというのは、人生にはつきものなのだろう。 油断だったわけではなく、 突然の出来事には対処の仕方がむつかしくて悩まされた。

  学校創立には協力的で、家計が苦しい中でも支え続けてくれていた魔女が、兵庫校舎ができ、すべてが順調になったころから、兵庫校舎に出入りすることが増えていた。 しかし、教育に造詣があるわけでもなく、学校経営ができるわけでもない。

  私が、三つの校舎で次々と起こる諸問題解決のために多忙な中で、出入りが多くなった魔女をどう呼んでよいのか分からない職員たちに、いつのまにか彼女は自分のことを「副理事長」と呼ばせることに成功していたようだ。

  彼女が学校に来ても何の役にも立たないが、そう呼ばれることに満足しているかのように出入りしていたのだろう。そこが魔女たる所以でもある。

  来るなと言っても、 はいそうですかというようなタイプの人ではない。 かなり以前に地動説と天動説のはなしをして、どう思うかと訊いた時にも 『私が太陽よ』 と答えた人なのだ。

地球が太陽の周りをまわっているのでもなく、太陽が地球の周りをまわっているのでもなく、わたしが太陽なのだからという魔女の性格丸出しの返事だった。

 魔女が兵庫校舎に出入りするようになってから、彼女を正式に紹介したのは事務職員にだけだった。もちろん魔女が職員室に頻繁に出入りすることはなく、彼女が出入りしていたのは事務所の方だったのだが、魔女ぶりを発揮して副理事長と呼ばせていたのだ。

  多忙な中、そんなことで争いたくなかったから放置していた。 生徒募集も順調に毎年のように二百名が入校して来ていて、 教員たちも経験を重ねて、 生徒指導も上手になり、 理念の理解も進み、やれやれと思っていた数年後に会計事務所から重要な話をしたいので来てくださいとのこと。 

  湊川神社傍の会計事務所に出向いたところ、 意外なことを聞かされた。

  魔女が、学校の金を使い込んでいるということだった。 学校には会計処理担当専用の事務員もいて、月々のまとめは会計事務所に依頼してあった。 私は経理の知識はあるが、経理関係は事務職員と会計事務所にすべて任せていた。        私自身の給料のすべても魔女に全部渡していたので、彼女が家計に困ることもない。

  会計事務所の話では、その額が、とてつもなく大きくて、今後の学校経営に大きな支障をきたすことは目に見えているということだった。

まずは、その事実確認を行ったところ、間違いなく彼女がやったことだと判明した。

 狂気の沙汰だと判断したので、十年以上も手塩にかけて育てた彼女の子供たち四人に挨拶することもなく、自分の衣服だけを車に積んで家を出た。

 魔女とは別れなければならないと心に決めたのだ。

  恥ずかしくて、こんな事実をだれにも言えないが、学校経営が破綻してしまってからではどうにもならない。話をしてわかってもらえる相手ではない。

常識的に考えても学校の経費に認められるはずもない領収書を、どさっと提出された会計事務所が驚いて連絡してきたというわけだ。 そういうことをするだけでも彼女は経理に関して全くの理解がない証拠でもあった。

 会計担当の事務員が私に告げずに、会計事務所にそのまま提出していたために、私が知るまでに日数がかかりすぎ、金額も多くなり過ぎていた。 常識では考えられない数千万円という金額であった。金の使い方がずさんな人だとは知っていたが、学校の金に手を付けるなどとは夢にも思っていなかった。

 学校は、授業料が年二回に分けて振り込まれてくる。だからある時期には預金残高が多くなっている。 しかし、それらは家賃や人件費で毎月どんどん減っていくものであって潤沢な金があるわけではない。

  百本のバラを抱えて登場してきた彼女に心の隙をつかれた私であったが、彼女の四人の子供を育てながら、やっとここまでたどり着いた矢先の、思わぬ災難でもあった。災難は自分の足元から発生したのだった。

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  そんなことが起きる一年前だったか、長女の恵美が訪ねてきて、

『パパのお金で何をやっても、娘たちは、だれも文句は言わないし、お金を残してほしいとも思ってないけれど、借金は残してほしくないというのが、姉妹の思いであるのだから、それだけは言っておくね、わかってね』

 それをわざわざ言いに来たようであった。 小さな学校かと思っていたら、生徒数六百名、教員数五十名と知って釘を刺しに来たようなのだが、だれかの入れ知恵であったのだろうと思っていたが、まさかこんなことになってしまうとは、大きな借金を抱える羽目になる可能性がある。

 ところが、魔女によって、ありえない局面を迎え娘たちの言葉も現実化しそうで、身震いする思いだった。