中原武志のブログ

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食について考える(その一)

白内障治療のためしばらくは、古い記事でご辛抱を・・
 
JA・NEWS新聞2009年3月号掲載
 
食について考える(その一)
 
 2008年ほど食についての話題に事欠かなかった年はないだろう。偽装表示などはもう慣れっこになってしまったし、高級料亭での残り物の使い回しなども、さもありなんと軽く受け止められるようになった。中国製の冷凍食品の農薬混入事件や野菜類の農薬残留なども、やっぱりと思ってしまう。食についての安心感が損なわれた年でもあったためか、内閣府の調査では、食品の購入にあたっては外国製のものではなく国内生産品を買うと答えた人が八九%にも達している。
食にはさまざまな側面があり、かなり幅広い視点から考えることができる。ここでは限られたスペースの中で、あれもこれも断片的に取り上げて、皆さんの話題のきっかけになればと願っている。
 
自給率から考える
 食料自給率とは、国民の総消費量のうち、どれだけ国内で生産されているかを表すものだが、いろんなデータの取り方がある。生産、消費の重量で計算するものとカロリーで計算する方法、そして生産金額で計算する方法の三つに分けられる。それぞれ計算方法によって数値も異なってくる。また、品目によって自給率が大きく違ってくるのは当然のことだ。政治はいつの時代もどんな世情のときにもプロパガンダを行う。プロパガンダについてはかなり以前に本紙に詳しく書いたことがあるが、特に戦争にかかわる時期によく使われる手である。例を挙げれば、アメリカ政府はイラク大量破壊兵器が存在すると自国民だけではなく、世界中にそう信じさせ、国連をもだました上でイラク攻撃に入っていった、あのやり方である。
 食についてもプロパガンダが存在する。国民の目を欺き、世界の目をごまかす手段として使われる。それだけに公表される数字をどこまで信じてよいのかという問題があり、新聞などで発表される自給率についても、それぞれが冷静に考え、受け止めなければならない。
まず先進国(オーストラリア・カナダ・フランス・ドイツ・イタリア・オランダ・スペイン・スウェーデン・スイス・イギリス・アメリカ・日本)の穀物自給率について見てみよう。
 
穀物自給率穀物全般の自給率)<農水省発表二〇〇三年度>
トップが豪州で333%、次いでフランス173%、カナダ146%、アメリカ133%と続く。下位を見るとスイス49%、日本27%、オランダ24%となっている。日本は世界175の国のうち125目である。
カロリーベース自給率(国内で生産した米、野菜、魚、牛乳、牛肉などをカロリーで換算)<厚労省2005年調査>
豪州237%、カナダ145%、アメリカ128%、フランス122%、スペイン89%、最下位が日本の40%となっている。
価格での自給率(国内で生産したすべての食物を価格で換算)
日本の価格での自給率は66%になるらしい。
 
こうして数字を見ると、日本の穀物自給率は27%であり、カロリー換算では40%、価格換算では66%になることが分かる。
厚労省が最も重視しているカロリー換算で変だと思うのは、流通に出回った一人一日当たりの供給カロリーを2573キロカロリーで計算していることである。実際の国民一人当たりの平均適正カロリーは1800キロカロリー前後だから、これだけ大きく分母が変われば、おのずと計算が違ってくる。後者の計算ではカロリーベース自給率は55%を超えるはずだ。15%も数字が違ってくると、何を信じてよいのか分からなくなるのではなかろうか。
 
日本は世界最大の食糧輸入国か
 自給率を見るとそう思ってしまう。またマスコミ各社もそのような情報を垂れ流しているが本当か。2004年度の厚労省発表の数字を追ってみよう。
日米英独仏五カ国の農産物輸入額は一位が米国で559億ドル、次いで独の508億ドル、日英が415億ドルで並び、仏が346億ドルとなっている。日本は世界最大の輸入大国ではないということだ。
 実際の国民一人当たりの輸入食品依存度を見ると、一位が英国で690ドル、次いで独の617ドル、仏558ドル、日本は324ドル、米国214ドルとなる。対GDP国内総生産農産物輸入比率も0.9%で高くはない。
 国内生産額をもう一度見直してみよう。第一位は米国の1580億ドル、日本は堂々の第二位で793億ドルとなっていて、農業大国のロシアや豪州よりも多い。
 
何が問題か
自給率が低いから大変だと心配している国民が多いが、これらの数字を見ているとちょっと違うのではないかと思われる。
私が最も心配するのは穀物自給率である。輸入穀物の多くは家畜の飼料用である。日本人の食生活が欧米化するほど乳製品を大量消費し、霜降りのある牛肉など脂肪分の多いものを好むが、それらを生産するためには飼料が穀物でなくてはならない。穀物輸入が減ると、それらの生産価格が暴騰してしまうだろう。食料自給率を本気で心配するなら、人々の日々の食生活を見直し、コンビニストアーやファミリーレストランから出る大量の廃棄物の見直しが肝要ではないだろうか。
 
厚労省のまやかし
 厚労省が重視しているカロリーベースの自給率計算を行っているのは日本だけというから驚きである。その上に分母まで納得のできない数字を当てはめて計算し、数値をはじき出している。何のために、あえて自給率を低く発表するのだろうか。
 農産物自由貿易交渉とか、ウルグアイ・ラウンドにおけるコメの関税問題などが、その裏にあることは言うまでもない。要は国民の目を欺くために考え出された数字なのだ。
 もう一つの理由があるらしい。自給率が低いから国民の食を守るという農水省の掛け声は、農水省予算の確保と拡大だという考え方である。
 日本という国の各省庁は、国益をほとんど考えないようだ。国益よりも省益を考えていると国会議員も嘆いているが、官僚の多くは国益より省益にこだわっているというから驚きである。食料自給率に関する報道も、このようなことを頭に入れて読むと格別の味わいがあるのではないだろうか。
 
フードマイレージについて
フードマイレージとは食品が消費者に届くまでに使われたエネルギーの指標のことで、重量×距離で示される。食料品の国内自給率が低いということは、不足分を外国からの輸入に頼っているということにほかならない。日本は特に小麦、トウモロコシなどの穀物は七三%を外国に依存している。穀物は圧倒的にアメリカ、カナダと豪州からの輸入で、魚類ではサバ、真アジ、タコが遠距離輸入である。食料争奪戦のため、年を経るほどに遠距離からの輸入になっている。ここでは重量は省いて、食品別輸入距離を簡単に記しておこう(単位はキロメートル)。
小麦9600、牛肉8890、豚肉11400、鮭(さけ)15300、真アジ22000、タコ20000、サバ21000、エビ3000、イカ1100、カボチャ8300、ジャガイモ9000、リンゴ9000、ブドウ15000.
 輸入先のトップスリーは米国3285億トン、カナダ548億トン、豪州464億トン、その他の国705億トンとなっている。エコを考えながら食料選びをするというのもしんどいものだ。
 
食糧輸入で世界の水を買っている
 丸紅経済研究所長の柴田明夫氏は「日本は毎年三百億トンの水を輸入している」と指摘している。この数字はミネラルウォーターの輸入数字ではない。日本が一年間に輸入している穀物は3000万トンを超えているが、これを耕地に換算すると1200万ヘクタールとなり、日本の耕地面積の二・六倍にもなる計算となる。また、穀物一トンを収穫するためには千トンの水が必要であり、日本の穀物輸入三千万トンは三百億トンの水を輸入していることになるのだということだ。
 鶏肉一キロを生産するために必要な飼料は約四キロ、豚肉の場合は約七キロ、牛肉は約十一キロだから、これらの飼料のもとになる穀物を計算すると、鶏肉一キロには四・五トンの水が必要であり、豚肉一キロでは六トンの水、牛肉一キロを生産するには二万倍に当たる二十トンの水が必要になる。もちろん鶏も豚も牛も毎日多くの水を飲んでいることを考えれば、この数字を大幅に上回ることは言うまでもない。
おいしい肉を生産するためには、運動を抑えるために囲いの中で飼い、穀物を与えて育て、ほどほどの脂肪をつけなければならないから穀物を大量に消費することになる。そう考えると、牧草だけで育てられている(と思うが)羊は食料不足に貢献しているのかもしれない。
動物から人間にうつった病気は数知れない。牛からは結核天然痘など七十種ほどの病気が人間にうつり、これまでに最も人間を殺している。豚や鶏、犬や猫もそれぞれ六十種類以上の病気を人間にうつしたようだ。羊が最も少ないという。戒律にのっとって羊の肉を最高のごちそうとするイスラム教は、そういうことも知った上での教えなのだろう。ユダヤ教のバージョンアップがキリスト教であり、そのまたバージョンアップがイスラム教であることを思えば、時代的にもイスラム教は、そういう新しい考え方を取り入れることができたのかもしれない。