中原武志のブログ

生きていくうえでの様々なことを取り上げます

随筆自伝(173)私を守ってくれたのはだれなのか

   JAニュース紙2003年5月号原稿

   「世界を見る・考える」第十二回

   戦争とプロパガンダ ( その一 )

 いよいよ世界は末期的な様相を呈してきたのか、あるいは新しい時代を迎えるのか。

アメリカのイラク攻撃は何のために行われたのか、もはやその大義名分は、どこかに置き去られ、目先を変えた言い分が罷り通ろうとしている。戦後処理問題では、「血を流した国に権利がある」と公然と主張しており、ますます一国主義の「我がもの顔」を押し通しそうだ。

 「言葉は怖い」そう感じる今日この頃である。なぜならば「テロ」と言う言葉さえ使えば、主権国家さえ侵攻して簡単に奪う事が出来るという事を今回のイラク攻撃で証明されたのだからである。「テロ」と言う言葉を世界の為政者が都合の良いように使い、それをマスコミが追従するようになってから世界は変わり始めたように思う。

この1年半の間の成り行きを観察していると、9・11事件は、アメリカが意識的に起こしたものではないかとの疑念が再び沸き起こってくる。9・11事件を最大限に利用し、他の国が束になってもかなわない圧倒的な軍事力に物を言わせ、アメリカに隷属する事を強要している。いつの間にか「戦争」より「テロ」のほうが恐ろしいものだと思わされていることに人々は気付きもしないのだろうか。アメリカでは、80%の人々がイラク攻撃に賛成するという恐ろしい現実が見られる。アメリカは、もはや民主主義の国ではなくなってしまった。なぜならば、イラクにおいてクラスター爆弾が使われたこともアメリカ人は知らされていない。報道管制があるのかないのかは分からないが、都合の悪い部分を隠して報道しているという点では、60年以上前の日本と何ら変わりはない。情報が乱れ飛ぶ今日においてさえ、世界に於けるさまざまな状況を最も知らないのはアメリカ人だといわれている。今回はそれを如実に示したようだ。

大量破壊兵器を持つ国が「持たない国」を滅ぼした。

 近代的大量破壊兵器で装備され、圧倒的な軍事力を持つアメリカは、象がネズミを踏みつぶすようにイラクを圧倒した。イラク大量破壊兵器化学兵器も戦闘機も持たない貧弱な軍備しか持っていなかった。これは戦争というよりも一方的な侵略というべきだろう。圧倒的勝利を収めたアメリカは今後どこに向かうのだろうか。イラクの暫定政権は、アメリカの意向に従ってイスラエル擁護派で占められる様であり、製油施設などの復興にはアメリカ企業が当てられるだろう。国連中心での復興を唱えるヨーロッパ各国との軋轢や、イスラエル寄りになる暫定政権を巡ってアラブ諸国との摩擦も増すだろう。アフガン制圧によって念願のパイプライン設置も可能になり、今回の勝利でイラクの石油資源確保とイスラエル保護という目的を果たせたアメリカは、その強力な軍事力を持って何もかも思うように事を運ぼうとしている。次の目標はアラブの民主化という大義名分を掲げてのものになるだろう。アラブの邪魔者シリアとイランがターゲットになるだろう。アラブの民主化という大義名分でアラブ全体を刺激し、抵抗勢力を力でねじ伏せる、どこまで我侭が通るのか。ことの次第によっては、世界は大きく揺れ動くことになろう。

  《情報合戦》

イラク攻撃当初から、イラク、米英両サイドの激しい報道合戦が繰り広げられた。

米英側は子供じみた嘘の発表をしては訂正するという醜さを何度も繰り返した。米英首脳会談後にブレア首相が「イラクは英国兵の捕虜を処刑した」と発表したが、翌日遺族に突き上げられ、あれは間違いだったと訂正した。フセインが死んだとか、大量破壊兵器が発見されたという嘘の発表も後日取り下げた。当初はアメリカよりも忠実に事実を発表してきたイラク側も、大統領官邸にアメリカ軍が侵攻したという報道に、「そんな事実はない」と反論したが、これは事実を隠す真っ赤な嘘だった。戦争にはこのような自国に都合のよい報道が行われるものである。世界中の人々は、巧妙なプロパガンダ(情報宣伝)によって操られ、いつの間にかその罠の中にはめられてしまっている事にも気付いていないだろう。  

安保理をだました大きな罠

今回の戦争において、最も大きな罠は「イラク核武装を計画しているという偽文書」ではないだろうか。ブッシュが「イラク大量破壊兵器を持っている」と国連に問題を持ち込んだ2週間後の2002年9月24日に、イギリス政府がその証拠として提出したのが、アフリカのニジェールからイラクが酸化ウランを買う交渉を進めていたことを示す証拠文書だった。もちろんイラクは即座にそれを否定した。しかし、日本を含めて国際社会の多くのがこの文書の存在を信じたようだ。アメリカ上下議院において、それまでイラク攻撃に反対していた民主党も、この報告をパウエルから受けてイラク侵攻に賛成し、決議してしまったのであるから、この文書の果たした役割は大きい。

今年の年頭教書の中でもブッシュは、この文書に触れイラクを非難したが、その3ヶ月あとの3月になって、この文書が偽造されたものだという事が判明したのだ。

国連の原子力機関であるIAEAが、証拠とされたこの文書を偽物だと指摘した。その説明によると、(1)証拠のニジェールの外交文書に使われているレターヘッドは古いタイプのもので、書類の日付の頃には使われていなかった。(2)文書の日付は2000年10月だが、この書類に署名されている外務大臣は、89年まで外務大臣を務めた人の名であって2000年当時の外務大臣の名前ではない。

以上の2点から、明らかに偽物だということが分かるような稚拙な偽文書を使って、米英は国連をだまし、アメリカ議会をも騙したという事になる。

まさか、米英がこのような方法で世界を騙すとは思わないだろうという心情を利用した姑息なやり方である。誤解のないように補足すると、3月号に書いたパウエルが国連総会で他人の論文を登用して演説したということとは別であり、「偽文書」は比較にならないほど重要な問題である。以上の事は、米英のイラク侵攻は、本来何の根拠も持たない「でっち上げ」だった事を証明している。国連査察委員会においてもイラク大量破壊兵器を持っていることに疑念を持っていたし、フランス、ドイツなどは査察の継続を主張していたにも拘らず、国連を無視してイラクを攻撃し始めたのはご存知の通りである。

 

歴史が証明する世界の嘘

これから書き進める事実の多くは、闇の世界とも言えるほど国際政治は恐ろしいものだという事を改めて知っていただくことになるだろう。

これらは先月紹介した本の中に書かれている事柄である。これらの本の多くは貴重な論文であり、研究者が丁寧に調べ上げた血の出るような力作である。戦後50年以上を経て新たに公開された公文書、秘密文書などによって分かってきた多くの新事実も書かれている。もっとも最重要秘密文書は未だに公表されていない。おそらく永久に公表されないだろう。なぜならば、それらはその国の崩壊にもつながりかねない重要な機密だからである。それでも研究者達は、執拗な調査を繰り返し、線と線をつないで一つの事実を突き止めるという作業を飽きることなく続けて素晴らしい論文をなした。

 同じテーマーを外人が書いたものと日本人が書いたものを読み比べると、そこに面白い新事実を発見する。これらは、書いた著者自身よりも読み手の方が良く見えてくる部分(事実)である。全部で4万頁を超える膨大な資料を、この限られた原稿の中に押し込めるには、一年間をかけても400分の1ぐらいに圧縮しなければならない。どこまで真実に迫れるか不安でもある。

 

 「戦争とプロパガンダ」を辞書でひもとけば「教義や主義に関する思想的な宣伝」などとなっているが、ここで使うプロパガンダは、分かりやすく言えば「各国の政府筋による情報宣伝」と捉えていただければよい。それらは大統領、首相などによるものもあり、CIA、M16などの諜報機関や軍部によるものもある。もっと凄くて怖いのは、それらを動かしている機関でもある。9・11事件後にアメリカが取った行動はプロパガンダを巧妙に使った一例である。多くの国民や世界の人々は、アメリカの巧妙な戦争プロパガンダによってアフガン攻撃を許し、イラク攻撃をも許してしまったのである。