《家具などを探しまわる》
許可が下りるまでモーテルで過ごしながら毎日を家具や台所用品探しに奔走していた。
いろんなものを探すときに困ったのは、日本のようにあちこちにお店があるわけじゃなく、どこに行けば目指す商品があるのかが分からなかったからだった。
どこで出会ったのかも忘れてしまったがクニ子さんという日本女性としりあった。彼女の説明では、家具などはA地域、台所用品などはB地域というように同業者が集まっている地域があるから、そこに行けばたくさん見つけられるということだった。
許可が下りれば真っ先に必要なのはベッドなどの寝具と料理をするための道具だった。
それらを物色するのに二週間の期間が大いに役立った。
二週間後、正式に契約を結び決済が終わった夜に、不動産屋さんが私たちを本格的な中華レストランに連れて行ってくれ、北京ダック、ふかヒレスープなど素晴らしいご馳走をしてくださった。
家を買って二度もご馳走になるなどめったにないことだと思うが、彼と私たちの信頼関係が生まれていた。
その後も、電話設置、保険などのさまざまな手続きを手早く彼がやってくれたのは大いに助かった。 彼の家庭にも呼ばれ、家族同士の付き合いも始まった。 これも人の縁というものだろう。 信頼が縁につながったのだった。
生活上で困ったことがあれば彼に聞けばわかる。
政府の許可を待っている間に家具を見て回り、家具屋さんが立ち並んでいる地域も見て回ったが、私たちはパースに近い場所にある素敵な家具屋を見つけて、家具を選び、期日に納入を依頼しておいた。すべて仮契約の時にサイズを計ってあったので、スムーズに事が運んだ。
当時に買ったキッチンテーブルセットと、応接セットだけ帰国する際に日本に持ち帰って現在も使っている。
《前庭の改造に汗流し、四キロ減量》
生まれて最高の74キロにまで肥っていたのだが、前庭の一部を改良しようとして、頑張った甲斐があり、一か月間で4キロ減量に成功した。
なにをするにも道具が必要で、そのために道具を売っている場所を探さなければならないのが、面倒だった。 とにかく広大な街だから、家具の場合と同様に、業種ごとに集合している地域がある。 それをすべて知るまでには二年はかかったと思う。 日本のように住宅地にさまざまな商店が混じりこんでいるようなことはなく、整然と企画されているのだが、慣れるまでは大変だ。
オーストラリアは、ニュージーランド、カナダなどと共にエリザベス女王を頂いている英国系の国である。 そのため英語もキングイングリッシュのはずなのだが、豪州独特の発音がある。
パースなどの都市部では、下手な英語でも通じるが、植木などを買い求めるために田舎に入り込むと、下手な英語が通じない。
『この木を私の家まで配達してほしい』
こんな簡単な英語が通じなくて、理解してもらうまでに時間がかかった。わたしのデリバリーという発音が悪かったためだった。 RとVとLの音が微妙で慣れるまで困った。
『この木は大きくて、私の車には入らない。だから、あなたの車で持ってきてほしい』
中国人の使う日本語のように、(これ私の車はいらない。あなた持ってくる、いいか)のよう
に言って通じたということだ。
田舎でのやり取りも、数か月で慣れる。言葉は使っていて上手になるものだ。後にアメリカ旅行でマイアミに行ったとき、店長の婦人に「あなたの英語は美しいけれど、どこで習ったの」
と言われたことがある。お世辞にしても嬉しい。アメリカ英語は好きじゃないから。
《巨大なヨットハーバー》
家から真っすぐ十分歩いて海辺に出ると、「ソレントキー」と言われるところだ。ここはヒラリーとも呼ばれている。ソレントキーとはソレント岬という意味です。
ヒラリーヨットハーバーは、日本ではちょっと想像できない規模の大きさである。大小さまざまなヨットが係留されているのを眺めているだけでも楽しい。 ここからはロットネス島への観光船も出ている。
湾内に木造で作られたショッピング街はアメリカによくみられるタイプのものとそっくりだ。水の上に浮いているようなショッピング街になっている。喫茶店、土産物店などさまざまな種類の店が軒を並べている。
私たちは、14年間、毎日のように住宅街を大回りをしながらソレントキーへ行き、一時間の散歩コースにしていた。 住宅地で出会う人たちは、ハローっと言って挨拶してくれる。
帰国してから住んでいる街で出会う人たちに「今日は」と声をかけても、十人のうち九人は知らぬ顔をして通り過ぎる。 パースの住宅街の人々のほうがずっと心地よかった。
《珍種がいる水族館》
ヒラリーには水族館がある。 水族館単体としてはオーストラリアで最大であり、世界で十番目の規模である。
世界中で、ここにしかいないという珍しい「タツノオトシゴ」がいる。 よく知られているタツノオトシゴとは全く違っているのだが、 私の表現力では書きようがないぐらいに面白い生き物なのだ。
一時間観ていても飽きることがない。 「将来の極上の宇宙船」のように思えるのだった。どうして、このような発達の仕方をしたのだろうか、不思議の世界の生き物と言えるだろう。もし神戸の水族館にこのようなものがいるのなら見に行きたいが、どうやらパースの水族館だけのものらしい。
このような施設が家から歩いていける距離にあるのもうれしいが、インド洋に沈む夕日の美しさはたとえようがない。
一年中、夕日はみられるが、不動産広告の文言を真似ると「アフリカまで見える」という感じともいえる。