中原武志のブログ

生きていくうえでの様々なことを取り上げます

随筆自伝(110)私を守ってくれたのはだれなのか

      《冷凍された種》

私がこの時の研修会のまとめに話したことを、以下に要約します。

【今度の合宿について、今までにない討議が行われたことを評価します。教師が傷をなめ合って生徒を裁くというようなこともなく、充分に切磋琢磨されたことはすばらしいことです。しかし、会議中、かなりの問題発言がありました。理念をどこかへ置き忘れてきたような発言も多かったように思います。

生徒が問題行動をした時に、どうして即座に厳しい対応をしなかったのかということが、不満の最も大きな部分だったように思います。

しかし、その問題行動の現場には、批判をしている人もいたはずなのです。しかし、間違った指導をしてはいけないと思い、差し控えておられたのでしょう。間違った指導をするより、その方がよかったかもしれませんが、もしそうなら、後日になって批判するのは筋違いでしょう。

『初めての問題行為』 に遭遇した時の処置が悪かったのではないかと考えている人もいます。一部の教師が間違った指導をしないかと心配した教師も居るでしょう。

あのような場合では、教師の間違った指導で生徒対教師の対立の図式が出来上がりやすいし、万一そのようになってしまったら、結果として多くの生徒を巻き込み、場合によっては処分をしなければならなくなります。一部の生徒たちがしたことは決して良いことではないし、許されることでもないのですが、そのことにだけに目がいけば、生徒を裁き、教師の反省はまったくなくなってしまいます。U先生の指揮は正しかったし、私が日頃言っていることを実行して下さったのです。

入学したばかりの一年生の生徒は 『冷凍された種』 だと、私はよく申し上げています。 中学校の頃、校門から入れてもらえなかった生徒もいます。親が離婚する時に、

『俺は子どもはいらん』

『私もいらない』と言われて、両親から捨てられた生徒もいます。この学校に来ているからには、みんな何らかの大きな問題を抱えているのです。 小・中学生の頃、学習不振になったのにも大きな原因があります。身体障害かもしれませんし、情緒障害かもしれません。L・Dだったかもしれないし、そのことが原因でどれだけ叱られたかもしれません。

そのようななかで二重に三重にゆがめられ、心を閉ざし、どんどん心が冷凍されてしまうのです。  本来は、大きく、大きく成長するはずの草や木や花の種が、冷凍されてしまっています。

この学校へ来た時の生徒は、みんなそのような状態なのです。

冷凍された種に水や肥料を施してもむだなように、彼らに急いで勉強を詰め込もうとしてもむだなのです。

冷凍されたものをゆっくりと解凍してやるのです。人肌で暖めるのが一番いいのです。それは愛です。その愛で冷凍されているものを融かし、ゆがんでいるものを直し、大人不信になっているものを信じられるようにするのです。

私たちは、今までもそうやって生徒たちと一緒にやってきたではありませんか。そうして、生徒が変わっていく様子をたくさん見て実感してきたではありませんか。

一年生の七月といえば、入学してまだ三カ月です。その間に先生たちは解凍を心がけましたか?    どれだけ生徒に愛を注ぎましたか?    授業、出席、進級のことに目を奪われて、生徒たちの心をさらに凍らせてしまうことの方が多かったという先生はいませんか。 生徒の機嫌をとるとか、生徒とかけ引きをしていませんか。

あなたたち教師が、冷凍された種に対してこの三カ月間に何をすることができたかとういうことが試される合宿だったのです。 

毎年、一学期末の時点で合宿を行えば、多くの問題が起こるということを経験して知っていながら、この時期にあえて合宿を行っているには理由があるのです。

爆竹は悪質でしたか?   面白半分ではなかったでしょうか?  教師が過敏に反応しすぎて、彼らが面白がったということはありませんか?

私には解凍されて行く時のパチパチという音に聞こえます。解凍が進んでいる証しだと受けとめます。

障子や壁を破ったのも、ねじれたものが元に戻る時に当たったのだと思います。教師に暴言を吐いたのも、解凍がどんどん進んでいる証拠です。 私たちが、これまで生徒を信じてきたからこそ、生徒は立派に成長して卒業し、社会で活躍しているのです。

『教師の力量を超える生徒を入学させ、在校させるのは無理ではないか』 と発言した人も分かって下さいましたか。

あなたはまだ生徒を指導したこともあまりないし、生徒の成長を心で感じていなかったのですね。教師の力量に合わせて生徒を受け入れるのではなく、生徒に合わせて、教師が力量を高めていかなければならないのです。

この学校は生徒のために作った学校なのです。そのことを忘れないようにして下さい。 また、みなさん、私たちは医者であり、カウンセラーであり、弁護士であり、教師でなくてはなりません。そのためには、それらの勉強をしっかりして下さい。特にL・D問題を知らずしてこの学校の教師はつとまりません。どうか生徒を裁くことなく、生徒の善と可能性を信じ続けて下さい。そのために、あたな自身を高め続けて下さい】