中原武志のブログ

生きていくうえでの様々なことを取り上げます

随筆自伝(86)私を守ってくれたのはだれなのか

         《ホームルームでの話し合い》

  生徒たちが近隣の人たちにご迷惑をかけたという問題を知って、その行為がどうしていけないことなのかを徹底して生徒たちと話し合おうと思った。

  全教室でホームルームを行い、生徒と話し合った。生徒だけを対象にするのではなく、教師たちを意識してのホームルームを一週間続けたのだった。

テーマは、社会で生きていくためのマナーについてだった。

《その1》

学校と、近隣との関係を考えよう。君たち生徒は、無人島に上陸したつもりで好き勝手をしているが、ここは無人島ではなく、以前から住んでいた人たちがいたのだ。 先住民たちは静かな生活を楽しんでいた。 君たちは、先住民と仲良く暮らさなければいけないのです。 まずは、先住民の居住区に立ち入らないこと。 路地というのは、私有地であって、公道とは違い勝手に立ち入ることが出来ないところなのです。 路地でタバコを吸うことで、住民たちは火災を恐れているのです。

《その2》

店に買い物に行くとか、食べに行くのは自由です。 しかし、店先に大勢が立ちならんで漫画本を読み、狭い店に大勢が押しかけることもよくない。 食堂で、ほかのお客さんがいるのに大声で騒ぐと迷惑が掛かりますからしないようにしょう。 大勢で押し掛けると、ものがなくなった時に万引きを疑われる可能性があるので、気を付けよう。 君たちは、商品を買うとか食べるとかというのは客の権利だと、考えているかも分からないが、場合によっては、店の側にも嫌な客を断る権利があることも知っておこう。 もうこの店に来ないでほしいなどと言われないように心がけよう。

《その3》

 食べ物や、飲み物の袋や空き缶を道に捨てないようにしよう。街が以前より汚くなったと言われないようにしよう。今後は、定期的にご近所の掃除をしよう。

 たったこれだけの話を、時間をかけてじっくりと話し合った。 「自由や、勝手や」と叫ぶも生徒もいる、「客の権利や」という生徒もいる。全クラス、一週間をかけたホームルームは成功だった。

         《地区の各グループの役員たちとの集会》

 ちょうどホームルームを開いていた週に、板宿地域町内会代表、各商店街代表、青少年育成会代表が公民館に集まるので、理事長と校長に参加してほしいと連絡があった。約二十人の役員たちが集まっていた。

 まず、どのような学校なのかという質問だった。学校の説明を詳しくしたうえで、

どうかご理解をいただいて、応援してくださるようにとお願いした。 かなり厳しい質問やら、指摘を受けたが誠意をもってお答えした。やがて、次のように言っていただいた。

『よくわかりました。あなたがやろうとしていることは大切なことだと、充分理解しました。 しかしね、学校がなければ私たちが迷惑を受けることがないのです。それが現実であり事実です。しかし、すでに生徒に対して指導をされているようなので、わたしたちは待ってあげましょう。一年間様子をみましょう。一年経っても同じ状態だったら、この町を出て行ってもらいますよ。いいですね』

 リーダーの一言で、締め括ってくれた。

                        《大事件が発生してしまった》

 心配していた事件が起こった。広域の中学校の番長と、それを取り巻く生徒が多いだけに懸念していた事件だった。 この事件は、その後も語り継がれる事件ではあった。

 その日の前日に、近くの板宿駅で、ある公立高校の生徒たちと、こちらの生徒たちでメンチの(にらみあい)切りあいがあったらしい。そして、近くの空き地で「タイマン」(一対一の喧嘩)をやったらしい。どちらが勝ったのかは不明だが。

翌日に、その公立高校の生徒が、昨日のことには全く関係のない、こちらの生徒を空き地に連れ込み、殴る蹴るの暴行を加えたのだった。(これらのいきさつは後に知ったことだが)

 わたしはその日、教師たちに

『今日のようにうっとうしい天気の日は、問題が起こりやすいので十分注意するように』

と、指示を出していた日でもあった。

 二時限になっても、あるクラスの生徒が戻ってこないと、担任が言う。

『どうもおかしい様子です。単なるサボりじゃないようなのです。全体がざわついています』

 事情を知っていて、黙っていた生徒が落ち着かないそぶりをしていたようなので、問いただしてみると、手に棒切れみたいなものをもって飛び出した生徒が数名、公立高校に向かっていったということが分かってきた。

 さっそく、公立高校に電話をしてみると、先方からも電話しようとしていた矢先のようだった。

『そちらの学校の生徒が五人、こちらの職員室に入ってきて、生徒の写真集を見せてくれと、迫っています。どうしてかと訊くと喧嘩相手の顔を確かめたいからだというのです。とりあえずは第一報です。またお電話します、またのちほど』

という。

 こちらからも教師三人が公立高校へと駆けつけた。一応の決着はついたが、二十名もの生徒が他校に押しかけ、五名が職員室に入って写真を強要したというのは異常な出来事であった。

だが、ものごとを単純に考える五人にとっては何の罪悪感もない行為だった。それ故に、その行動が間違ったものであることを五人に説くのにかなりの時間を必要とした。

  この事件の処理を誤ると「大事件」となり、学校間の対立も深まることになる。

結果的には、公立校の教師が、加害者の生徒数名をこちらに連れてきて、被害を受けた生徒に謝罪してもらい、治療費も負担するということで、円満解決に至った。