中原武志のブログ

生きていくうえでの様々なことを取り上げます

面白い文章の紹介(1)

 私が書いたものではなく、いろんな方が書いた、面白い話、役に立つ話などを少しだけ紹介していこうと思っております。

 名女優でもあり、名監督の松山善三さんの妻でもあった高峰秀子さんが筑摩書房から「おいしいおはなし」というのを書いておられます。その中には多くの知人友人が書かれたものが収められています。

今日は、その中から中山千夏さんの文の少しだけ紹介します。

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 「おいしいものが好きなのは、だれにでも共通するする決まりきったことなのだ。決まりきったことだから、むかしはみんな、特にそれを言葉にしていうことがなかった。それが、いつの頃からか口に出して言うようになった。

 なぜだろう?私たち現在の日本人は「おいしいものが好き」という、だれにとっても当たり前のことを、わざわざ表明することで、実のところ、いったい何を言おうとしているのだろう?

 おそらくこれは、最近の私たちの、ある種の傾向の一部だ、と私は思う。その傾向とは、欺瞞的な禁欲を捨てて人間の欲望を素直に肯定する傾向、とても言おうか。それよりいっそ、昔風に「恥知らず」と言おうか。

  中略

 また例えば性欲。もの心ついてみると、異性に惹かれる気持ち(場合によっては同性に惹かれる気持ち)が、なんとも恥ずかしい。性的な肉体の快感を追求したい気持ちは、もっと恥ずべきもの、まともなひとならぐっと抑えて生きるべき恥であるから、それをあからさまにした仕業は、恥を破った罪、破廉恥剤と呼ばれる。なぜか男性以上に慎みを求められる女性は、性欲など無いふりをするのが普通だった。

 しかし、そういう態度はしんどいばかりでアホらしいではないか、こういう生理、こういう欲望を持っているのが人間というものなのだ、ごまかしはやめてオノレを直視しよう。ちょくしして、その欲望を否定するのではなく、(否定したら人間をやめるしかない)おおらかに肯定して、ネアカに生きようではないかーとなったのが最近の私たちだろう。

  中略

 性欲のほうは、もう、ゆけゆけどんどん、おーれーおれおれおれーである。

東京の繁華街では、若者たちが手をつなぎ、路上で抱き合ってキスをしている。

   中略

 男性は欲望の強さを誇り、もはや女性も、性欲を隠すどころか、ひょっとして「感じないほう」が恐怖である。性開放を訴えてきた私でさえ、深夜テレビを観ると怖くなる。

 こういう流れと同じことが、食欲についても起こった。というのが私の推論だ。食欲というのもまた、かつてはそこはかとなく恥ずかしいことのひとつだった。

 ー後略ー中山千夏