小林さんから電話があり、玉ちゃんが物が二重に見えて運転が難しくなっているという。 事情を聴くと一か月前辺りから、少しづつそういう風になってきていたという。
それから数日たって、玉ちゃんから電話がかかってきた。
「なかはらさん、わたしどうなってのでしょうね」とろれつの回らない、玉ちゃんらしくない声が聞こえてきた。 私が玉ちゃんと会話したのはこれが最後となった。
数日後、小林さんから電話があり、玉ちゃんが入院したとのこと。病気の名前はと
訊くと、何か脳にばい菌が入ったらしいという。
彼の説明ではさっぱり要領を得ないので、妻と一緒にお見舞いに行ってきた。
小林さんの所から彼のベンツを運転して病院へ向かった。 病院の名前ははっきりと
憶えていないが東海大学病院だったような気がしている。 毎年新年に開催される、
箱根駅伝で海岸沿いの美しい並木が見える場所を通過するが、あの辺りにあった病院だった。
玉ちゃんが電話をかけてきてくれてから一週間ほどなのに、もう彼女は別人になって
しまっていた。 話すことも目を合わすことも出来ない状態だった。突然にどうしてこんなことになったのだろうかと、不思議な思いがした。
玉ちゃんは、それから3年後に息を引き取った。介護していた人の話では、時おり狂ったような状態になったらしい。
やがて、玉ちゃんの病気は「ヤコブ病」だったと知らされた。当時は訊いたこともない病名だったが、それが「狂牛病」だったと知った。
それから、わたしは玉ちゃんがなぜ狂牛病になったのかを調べようと思った。
狂牛病というのは当時広く知られた病名だった。イギリスが発祥のもとであり、イギリスを訪れたことのある人たちは一時は恐怖を覚えたものである。
狂牛病に罹った牛の肉を食べると狂牛病になる。だから英国で牛肉を食べた人たちに
恐怖が走ったのだった。
長らく狂牛病の原因は不明だったが、その後の研究で明らかになった。次号で詳しく説明しますが、人間の強欲がこのような病気を招いたのですから、人間ほど悪いものはないかもしれない。 地球の支配者のつもりでいる人間ほど強欲な動物は他にいないでしょう。