中原武志のブログ

生きていくうえでの様々なことを取り上げます

私流生き方(116)

(116)
編入生中元君のこと
 
その二年生に、編入生が加わることになりました。彼の名は中元君。
中学校当時は「番長」としてなかなかのものであったらしい。岡山の
全寮制の高校に進み、二年生に進級していたのですが、心機一転やり
直したいと言うのです。私の学校には技能教科があり、単位の関係上、
二年生への編入は本人しだいで認めようと、テストと面接をすること
にしました。
テストをしてみると、あまり成績がかんばしくないのです。本人と面接
してみようと思いました。なかなか立派な体格をし、精悍な感じの青年
でした。
「中元君、君の今までのことはすべて聞いている。ところで編入の件だが、今日のテストの成績は悪すぎる。これでは、二年生の編入を認めるわけ
にはいかん。どうだ、一年生からもう一度やり直してみる気はないか」
中元君は、私の目をしっかりと見つめ、
「一年生でもけっこうです。よろしくお願いします」ときっぱり言う
のです。
「しかしね中元君、君は一年生でもけっこうですと言うけれど、一年生
だとこれから四年間かかるんだよ。それでいいのかい」
「はい、四年制だということは知っています。四年でも五年でもいい
んです。やり直したいのです」
(その後法律が変わって3年制になったが、彼らは4年制のままだった)
彼の態度、言葉使い、すべてが立派でした。私は、
「よし、分かった。君を二年生に編入しよう。そのかわり、私の期待を
裏切らないようにがんばって欲しい。また、君が入るクラスは、ケンカ
が強かったり、好きな連中がたくさんいる。ちょっかいを出されてそれ
に乗っていたら、君の決意もだいなしになるよ」
「分かっています。気をつけます」
彼は、クラスに参加して初めての授業の時から、机を教卓に最も近い
場所にどんと置き、卒業するまでその場所を離れなかったのです。
彼がクラスに参加して、クラスの雰囲気がなごやかになるはずはあり
ません。そういうことは、編入の話があった時から分かっていたこと
ですし、彼の編入に反対の意見だってありました。しかし、彼の心意気
にほれた私は、敢えて、彼を編入したのです。クラスというものは、
たった一人の生徒によっても左右されることがあります。それだけに、
編入の場合も心しなければなりません。それはクラス編成の場合も同
じで、組み替えなどの場合には細心の注意が必要になります。
このクラスの場合は、特に一期生としての誇りと、生徒と先生が協力し
てやってきたんだという自負があります。そのなかに新参者が加わり、
その新参者がなかなかのやり手だと知れば、ひとつ、からかってみよ
うということになったのでしょう。入れ替わり、立ち替わり、中元君
に対して嫌がらせをしたり、ちょっかいを出したりします。しかし
彼は、軽くいなしたり威圧したりして、正面から衝突することを懸命
に避けていました。黒木君のように中学校で番を張っていた生徒、
入学後グングン頭角を表し、黒木君をして一目置かせるようになって
いた山川君、それ以外にも自信を持ちつつあった生徒がいました。
彼らと中元君は、お互いに牽制しあいながら、しだいに相手を認める
ようになり、ついに卒業までの三年間、中元君をめぐるトラブルは、
一回も起こらなかったのです。
ただ一度、トラブルらしきことがありました。けたたましく軍歌を流
しながら右翼の車が学校の前に__横付けになり、中元君が呼び出され、
拉致されたのです。一時間ほどして、何事もなかったような顔をして
帰ってきました。
彼は、この時、どんなに聞いても事のいきさつを話してくれなかった
のです。後で聞いた話では、何かのトラブルで右翼の中元君をこらし
めてほしいと頼んだ者がいて、彼が拉致されたようなのだが、彼の態
度が立派なので、逆に右翼に入らないかと勧誘されたらしい。もち
ろん、彼が断ったということでした。