中原武志のブログ

生きていくうえでの様々なことを取り上げます

随筆自伝(193)私を守ってくれたのはだれなのか

 Janews新聞 2008年6月掲載

   日本の医療問題を考える(14)

 

がんを知ろう (最終章)

 

 がんについての正しい知識の啓発を願って書き綴(つづ)ってまいりました。今回は最終章として、がん治療の基本的な考え方と、がんとどう向き合うかについて、私の考え方を述べたいと思います。

がんは最初の治療がとても大切です。ほかの病気でも最初の治療は大切でしょうが、がんの場合はことのほか重要な意味を持ちますので、肝に銘じておいていただきたいのです。

 

がんの標準治療

 がん治療の基本は、手術、放射線治療、化学治療の三本柱です。これ以外の治療法はあとで説明いたします。がんの部位や進行度によって治療方針が異なってくることを、これまでに述べてきました。日本では、まだまだ手術に重きが置かれていますが世界の流れは、がん治療の約半分以上が放射線治療へと向かっています。抗がん剤だけで治るというがんはほとんどありません。血液がん(白血病やリンパ腫など)には抗がん剤はとてもよく効き、治癒率も高くなっていますが固形がんの場合には、抗がん剤はあくまでも補助的役割にすぎません。

 

手術か放射線治療

 転移が百パーセントなく、手術でがん細胞を完全に摘出できれば、がんは完全に治癒することになります。しかし、よほど早期の発見である場合を除けば転移を疑っておかなければなりません。手術は成功したのに二年後に転移が見つかったなどということはよくある話です。

 手術で問題になるのは、臓器の摘出でしょう。臓器というものは、とても精巧に作られています。必要があってその臓器が存在するのです。ですから、よほどの事情がない限り臓器を摘出してしまうことは避けるべきだと私は考えます。またがんが原発部位にとどまっている場合だけ手術を受けるべきで、転移の恐れがある場合は避けるべきだと思います。

 放射線治療は格段の進歩を遂げています。手術しなくても放射線治療で代えられるものならばこちらの方をお勧めします。手術の場合も同じですが、放射線治療においても担当医師の技量が大きな問題となってきます。放射線治療の機器の充実度において日本は世界最高水準だといわれていますが、放射線専門医の数においてはアメリカの十分の一という寂しさですから、どこにどんな医師がいるかという情報を集めておくことが大切です。

 パースでも同じことが言えます。どんな治療科目においても良い専門医を選ぶことが、あなたの命を救うことにつながるのです。きめ細かい情報を得るように常日ごろから心がけておかなければならないでしょう。

 

標準治療以外の治療について

 上記三つの標準治療以外にも、がん治療を標榜(ひょうぼう)している治療法はあります。免疫療法もそのうちの一つですが、とても高価な治療なのに効果は疑わしいのではないでしょうか。

私の身近に免疫療法を受けたがん患者が何人もいますが、数百万円もかけて治療を受けたのに何の効果もなかったようです。それでも免疫療法はまだましな方で、世間にはとても信じられないような「がん治療」が数多く存在しますから、それらにだまされてしまわないように気をつけていただきたいものです。

 

サプリメントでがんは治るか

 「サプリメントでがんが治るのなら医者は要らない」とあるドクターが言っておりました。「そんなものに高い金を出すぐらいなら、こちらに回してほしいよ」とも。

 「藁(わら)をもつかむ」と言う諺(ことわざ)がありますが、進行がんになって不安になってくると藁でもごみでもつかみたくなってくるのでしょうか。がん患者を食い物にしているサプリメント業者もいますから世の中は醜いものです。中には一カ月で数万円もする「水」をがん患者に売りつけている医者もいます。信じられないでしょうが真実なのです。

がんを詳しく知れば、そんなばかな治療に引っかかるはずもないのですが、無知と不安が「高価な藁」に救いを求めてしまうのでしょう。詐欺商法に引っかからないようにしていただきたいものです。

 

がんとどう向き合うか

 不幸にして(二人に一人ですから不幸と言えるかどうか)がんになった場合、がんとどのように向き合うかということが大切な問題です。

 心臓麻痺(まひ)で、ある日突然命を奪われることもあり、予測しない交通事故で亡くなるなど、人々にはどのような死が待っているかも分かりません。「絶対」という言葉を使えるのは、植物でも動物でも百パーセント死ぬということです。こればかりは誰も避けて通ることはできません。いつまでも生き続けていたいという願望は誰にでもあるでしょうが、死を避けて通ることなんてできないのです。どんな死を迎えるかということだけが違っているのです。

 がんを恐れる人は多いですが、最近では多くの著名人が「どうせ死ぬのなら、がんで死にたい。がんは準備期間があるから」というコメントをしています。これには一理があります。突然死には、死に備えた準備期間がなく、残された家族が困ることもありますし、本人もやり残したことへの未練も生じましょう。がんの場合は、その部位や進行度によって一概には言えませんが、よほどの進行がんであっても数カ月間の期間が残されるでしょうし、がんになった臓器によっては、数年間から十年間以上の期間が残されています。死を覚悟するにもちょうど良い期間だと言えるかもしれません。

 がんになると、誰もが痛い思いをするのではないかと思われているようですが、部位によっても異なりますが、転移のないがんの場合は、さほど痛みを伴わないようです。昔から多くの人々ががんで命をなくしていたのでしょうが、その死因ががんだと気がつかなかったのではないでしょうか。しかし、転移した場所が腰椎(ようつい)などであれば、かなりの痛みを覚悟しなければなりません。最近では緩和治療が発達していて、多くの痛みを緩和することができます。痛みがひどくなってから緩和治療を受けるのではなく、早い段階から緩和治療を受けることで痛みから解放されるようです。

 

がんを恐れるのではなく、

がんと共存しよう

 がんになったからといって恐れてしまっては、心まで侵されてしまいます。何よりも大切なことは、正しいがん知識を持って冷静に受け止めることだと思います。がんの部位や進行度によって心の揺れ動き方は違ってくるでしょうが、もしも進行がんだとして、余命が少ないことが分かったとしても、その事実を冷静に受け止め、残された命の期間をどのように生きるかが大切な問題だと考えています。

 がんと闘う中で、高価なサプリメントの使用や、いかがわしい医療を受けるなどの無駄な闘いをしないで、がんと上手に共存しながら、何よりもQOL(生活の質)を落とさないことを第一に踏まえて考えることが、がんと闘う基本的な姿勢だと思います。

 このシリーズでは、がんについてかなり詳しく書いてまいりました。もっと詳しく知りたい、相談したいと思われる方がおられましたら、どうか遠慮なくメールをください。相談の内容は、相談医以外にはもらすことはありませんのでご安心ください。

 

どうか早めの検診を

 がんは、早期発見、早期治療で救われる率が高いようです。早めに、定期的に検診を受け、悔いのない人生を送りましょう。四十歳以上の女性は子宮体がん、子宮頸(けい)がん、および乳がん検診を、六十歳を超えた男性は定期的な血液検査でPSA前立腺特異抗原)のチェックを受けてください。通常の血液検査にはPSA検査が入っていませんので医師にPSA検査をして欲しい旨を伝えてください。

四十歳以上の男女は、胃にヘリコバクター・ピロリ菌がいるかどうかを検査してもらい、もし菌がいるようなら胃がんの原因になることが明白になっていますので、抗生物質で除去してもらいましょう。大腸や胃の内視鏡検査も定期的に受けることをお勧めいたします。

 二人に一人ががんになる時代です。がんは珍しい病気ではありません。自分には関係ないものと思わないで、真剣にがんについて学んでいただきたいと願っております。

 みなさんのご健康を祈願して、この連載を終わります。