中原武志のブログ

生きていくうえでの様々なことを取り上げます

随筆自伝(191)私を守ってくれたのはだれなのか

 Janews新聞 2008年4月掲載

   日本の医療問題を考える(12)

 がんを知ろう(8)

 がんについて連載してまいりましたが、がんは二百種以上もあり、それらを詳しく書くには紙幅が足りません。最後は女性に関係の深い子宮がんと乳がんについて書くことにいたしましょう。

 「乳がん

女性に関係の深いと書きましたが、実は男性にも僅かですが乳がんが見られるのです。

 また、他のすべてのがんは、転移がない場合でも原発部位のがんが大きくなることによって死に至りますが、乳がんにおいては原発部位のがんが大きくなっても、それだけでは死に至らないという特徴を持っています。これは乳房が生命維持装置として直接関っていないからです。

 乳房内のしこりを自分で感じて検査を受け、がんが発見される場合もありますが、マンモグラフイー検査での発見が多くなっています。若くて乳腺の発達している方には超音波での検査が適しているようです。生検によってがんだと確定された場合は、その後の治療計画を決めねばなりません。乳がんではステージⅠ(しこりが2センチ以下でリンパ節への転移がない)、ステージⅡA(しこりが2センチ以下で腋窩(えきか)リンパ節への転移が疑われるもの及びしこりが5センチ以下でリンパ節への転移がないもの)ステージⅡB(しこりが5センチ以下で腋窩リンパ節への転移が疑われるもの及びしこりが5センチ以上でリンパ節への転移がないものステージⅢA(しこりが5センチ以下で腋窩リンパ節に転移が多いか胸骨傍(きょうこつぼう)リンパ節に転移があると思われるもの)ステージⅢB(しこりの大きさやリンパ節転移に関らず皮膚上に現れ皮膚の浮腫やただれを生じているもの)、ステージⅢC〈しこりの大きさを問わず、鎖骨リンパ節に転移があるもの及び、腋窩リンパ節と胸骨傍リンパ節に転移があるもの〉ステージⅣ(しこりの大きさ、リンパ節への転移を問わず、他の臓器に転移しているもの)というようにステージが七種類と多くなります。ステージごとの病状変化を知ると、がんの進行がどのようになっていくのかを理解することが出来ます。

 これまでのほかのがんの場合と同じように、ステージによって治療法が異なってまいります。しこりがやや大きくなっている場合には、放射線によってしこりを小さくしておいてから手術で摘出する場合もあり、それほどしこりが大きくない場合には、手術してから放射線治療を行う場合もあります。

 女性にとって最も大きな問題は、手術によって乳房が失われることですが、最近では乳房温存手術が世界的に普遍的になってきています。この分野では日本はやや出遅れの感がありましたが、現在の主要な病院においては温存手術が当然のごとく行われておりますので心配は要らないのではないでしょうか。それでも、治療を受ける場合にはどんな手術を受けるのかを確認しておくべきだと思います。

 乳がんは他のがんに較べると生存率が高く、術後五年生存率では推し量ることが出来ず、十年生存率にすべきだと言う指摘があります。言い換えるならば術後五年が過ぎても転移がないから治癒したとは言えず、術後十年を過ぎるまで安心できないと言うことにもなります。初めに書きましたように、皮膚の表面に盛り上がるようになったステージⅢC期のがんであっても、転移がなければ乳がんで命が奪われると言うことはなく、その状態からでも治癒した例は沢山みられます。

 「子宮がん」

 子宮がんには「子宮体がん」と「子宮頚(けい)がん」があります。子宮体がんは増加の傾向があり、子宮頸がんは減少傾向にあるようです。

 子宮頸がんは、ウイルスによって引き起こされるがんであることに特徴があります。ヒトパピローマウイルスによる感染に何らかの要因が重なって発がんすると言われています。性行為がどんどん若年化するのと比例して、若い女性にヒトパピローマウイルスによる感染が広まっています。特に性行為の相手を多く持つ女性にリスクが高くなっています。子宮頸がんの検査ほど楽なものはありません。短時間で、しかも痛みを伴わず綿棒でちょいと組織を採取するだけの簡単なものですから、年に一度検査を受けると早期に発見されます。日本で通常行われている検診は「子宮頸がん」の検査のみで、子宮体がんの検査は別に受けなければなりません。

 子宮体がんは、食事の欧米化によって多発傾向にあるといわれ、いわゆる生活習慣病の一つでもあります。また、晩婚や少子化も増加の原因かも知れません。月経とは無関係の出血がある場合とか、不審なおりものが長く続く場合などは検診をお勧めします。

  子宮頸がんのステージⅠ(がんが子宮頚部に限局していて他に広がっていない)ステージⅡ(がんが子宮頚部を超えて広がっているが、骨盤壁、膣壁の下3分の1までには達していない)ステージⅢ(がんが骨盤壁間で達しているか、膣壁下方3分の1を超えるもの)ステージⅣ(がんが小骨盤を超えて広がるか膀胱、直腸の粘膜にも広がっているもの)

 子宮体がんのステージⅠ(がんが子宮体部にのみ限局しているもの)ステージⅡ(がんが子宮体部を超えて子宮頚部に拡がったもの)ステージⅢ(がんが子宮外に拡がっているが、骨盤を超えていないもの又は、骨盤内あるいは大動脈周囲のリンパ節に転移があるもの)ステージⅣ(がんが骨盤を超えて身体の他の部位へ転移するか膀胱あるいは腸の内腔を侵しているもの)

国立がんセンター発表の子宮頸がんの五年生存率治療成績では、ステージⅠの場合に92.1%、ステージⅡでは73.1%、ステージⅢでは49・2%、ステージⅣでは20・4%となっています。また、子宮体がんの場合では、ステージⅠの場合は90・5%、

ステージⅡでは88・5%、ステージⅢでは70・2%、ステージⅣでは16・7%となっており、早期に発見、早期治療を受けると生存率が高いのは言うまでもありません。

さて、問題は治療方針です。乳がんにおいては、欧米では乳房温存手術がごく普通であったのに対し、日本では全摘手術が普遍的に行われていると言う信じられないものでしたがここ十年以内に大きく変化があり、現在では乳房の全摘手術や周囲のリンパ節切除手術などを行う医師はほとんど考えられないと思います。こうした大きな変化は、多くの医療者の猛勉強によって変化してきたと言うよりは、一部の医師の努力と多くの患者側からの積極的な運動の成果があって乳房温存手術が普遍的に行われるようになってきたというのが実情です。

 さて、子宮体がんや子宮頸がんの治療方法について考えましょう。

一週間前に芦屋市で「女性のがんについての講演会」がありました。その席上で某がんセンターの婦人科部長が「子宮頸がんのⅠ期及びⅡ期については手術が普通」だと話したそうです。これは大きな問題を含んでいますので近い機会にこの先生にお話を伺いに行こうと考えています。

 通常、子宮頸がんの手術では「広汎子宮全摘術」で卵巣まで切除し、場合によっては骨盤内リンパ節も郭清しますから術後に大きな後遺症を伴うとされています。欧米の比較試験では、放射線治療と手術ではほとんどその結果に変わりがないというデーターが出ており、欧米では放射線治療が主流になっています。しかし、日本では未だに手術が主流になっている現状あるわけです。これではまるで十年まえの乳がんの場合と同じではないかと思います。病院内の力関係が外科中心(婦人科、耳鼻科なども外科と考える)

になっているのが日本の医療の問題点の一つにもなっています。

この問題を考える時、大病院だから安心してお任せ医療を受けることの是非についてやはり深く考えざるを得ません。国立がんセンターや地方のがんセンターの主要な地位にある医者であっても十年遅れということがあり得ると言うことではないでしょうか。

 乳房温存手術でも国立がんセンターは後塵を拝していたと言う事実もあります。子宮がんの治療を受ける際には、情報を集め、何が自分の治療に適しているかを考える必要があります。何度も言うようですが、がんの治療は、最初の治療がすべてです。やり直しがききません。最初にどんな治療を受けるかが、あなたの命を左右し、QOL(生活の質)まで決めてしまいます。ですから、がんと診断された時には、どんな医療者にどのような治療を受けるかを充分な情報と知識を持って決めなければなりません。

 来月号では、締めくくりとして、がんにまつわる基礎知識をもう一度詳しく書きたいと考えております。