この記事は、豪州、パースの邦人紙であるJA・NEWS新聞に
2011年から2012年 まで20回連載した「海外旅行の思い出」を
まとめたものです。
旅というものは、手作りの方が思い出が残ります。
ツアー旅行の場合でも、手作りの部分を自分で少しでも多く
作ることが旅の楽しみにもなります。
たとえばですが・・・信号機の高さとか色とか、標識だとか、
看板だとか・・・国によって違うものです。それらをしっかり見つめる
ことが、記憶を鮮明にしてくれます。
名所旧跡をどんなに観ても、思い出にはつながりません。
失敗が多いほど、楽しい思い出が増えることになります。
ハウツー本とは違った何かを感じ取っていただければ幸いです。
初めてマイアミに行った時、ほとんど何の知識も持っていなかった。日本人にとってフロリダは遠過ぎる土地でもあった。今のようにインターネットで簡単に検索できる時代であれば多くの知識も持ってから出かけたであろう。しかし、何もかもインターネットで調べる単調さとは別の趣がった。
当時の月刊・旅行雑誌「エービーロード」を買い、徹夜で眺めながらいろいろと考えるのも楽しかったものだ。家内から「根気がいいね」と言われるほど雑誌と長時間向き合っていた。そのおかげで、とても経済的な旅の仕方を覚えたものである。日本→アメリカ西海岸都市→東海岸都市→フロリダ半島→西海岸都市→ホノルル→日本と飛んで約6万円から8万円程度だった。だから少しずつコースを変えながらあちこちに出かけた。
ヘミングウェイが住んだ島
マイアミ市やマイアミビーチ市を何度もうろうろしていたので、映画やドラマの風景に懐かしさを覚えることがしばしばである。個人旅行なので、縛りがなく自由に行動できるのが楽しい。失敗も多いが、その分思い出も多いということになる。
マイアミも飽きてきたので、どこか他に観光地はないものかと地図を見ていて気がついたことがあった。フロリダ半島の先から南に向かって海の中に国道1号線が描かれていたのだった。何だ、これは…どうして海の中に国道が?と思って調べると、その先にキーウエスト島があることが分かったという次第である。
2度目に行った時には、大きなアメ車(リンカーン)を借りて、娘に運転させて行った。娘は当時ハワイに留学していたので左ハンドルと右側走行に慣れていたからでもある。
海の上を車で走る快感
最も有名な橋は「セブンマイル・ブリッジ」で、ペプシコーラの宣伝などに使われていたのでご存じだろう。セブンマイルということは11キロ以上もの長さの橋である。セブンマイル・ブリッジは2本あって、1本は1912年に鉄道橋として作られたものだが、ハリケーンで壊され、橋は途中で切れているが、風景として絵になっている。現在使われているのは、1982年に新しく作られた橋である。セブンマイル・ブリッジを渡る時の爽快さは、うまく表現できない。右がメキシコ湾、左がカリブ海、澄み切った美しい海がそこには広がっていて、とてつもなく美しい。一生忘れることのない風景の一つである。
島々の海面すれすれの道路には驚いたし、珍しくて楽しかった。この道に沿ってたくさんのヨットハーバーも目にした。おそらくこの辺りは世界一の保有数だろうと思った。
とにかく、島から島、橋から橋という感じで4時間以上走り続ける。そのほとんどは海の上か、海のすぐそばである。おそらく他では経験できないだろうと思うほど素朴で美しい風景のドライブなのだ。バスで行くと座席が高く見晴らしは良いが、乗用車で行く場合の、海との近さを味わえない。私たちは、そのどちらも経験することができたので幸せだった。
キューバが見える日も
ヘミングウェイが住んでいた家は、現在は博物館として一般公開されていて、彼が大好きだったという猫が今も何匹も闊歩(かっぽ)していた。
町にはコンク・トレインという可愛(かわい)い小さな汽車の形をした乗り物が市内観光として人気がある。乗ってみたが、40分ほどで街を一周した。
ハーバーから船が出ており、それに乗った。船の底がガラス張りになっていて、海の底が見えるようになっている。サンゴを見たことは覚えているが、他に何が見えたのかさっぱり記憶にない。
結局、キーウエストにも4度訪れたが、こんな遠い地まで何度も行こうと思ったのは、やはり海の上を走ってゆく快感だった。機会のある人には一度はぜひ経験していただきたいと思う。
パースに移住してすぐのこと。地図を見ていると海の上に橋があるではないか。家内と思わず顔を見合わせた。そして、にやっと笑った。すぐに行ってみようと車を走らせた。
そして橋があった。何も考えずに橋を渡ったら、検問があり「ここは海軍基地です」と追い払われたものだ。キーウエストまでのあの美しい道路の思い出が、そんな失敗をさせたのだった。