以前、JAニュース新聞連載のコラムで「あの長嶋さんに会った」を
掲載したことがあったが、あれは夢の話でした。
でも、今日は夢ではなく本当の話。
医院へ行き、薬局まで妻を送り、一足先に私は食材を買うために
パントリーというスーパーへ行く。
ちょうど店の前を、4脚の杖を使いながら、もう片方の手で何かを
掴んで歩行しようとしているが、なかなか掴めるものがなくて困って
いるように見えたので、手を貸しましょうか・・と言ってみた。
「ありがとう」と私の手を握った。私はそこから30メートルほどのところ
にあるエレベーターまで手を貸すつもりだったが、彼はあっちのエスカ
レーターで行きたいという。
手を貸してみてわかったのだが、ものすごい圧が私にかかってくる。
腕だけではなく、体全体の筋肉で支えていないと彼が倒れてしまいそうな
圧力だった。
どういう病気なのですか?と尋ねると、医者にもわからんそうです、という
答え。
話を聞くと、両足首に力が入らなくて、思うようにならないとのこと、足首以外は
元気なんですけど・・という。4つ足の杖で支えられる距離は2,3メートルの
ようで、次の目的物を見つけて体を投げ出すように、その2,3メートルを歩いて
目的物にしがみつく。そういう行為を重ねながら彼は歩いているのだった。
エスカレーターを降りるときに、危うく私が怪我をしそうになった。
彼にエスカレーターの乗り降りにけがをしたことはないのですかと聞くと、何度も
危ない目にあったがけがをしたことはない、「けがをするのは、ふつうサポートを
している方なんですよ」と笑う。 彼は63歳だそうだ。
その若さが、これほど不自由な体でも行動範囲を広くして生きていける
のだなとおもった。やはり、若さほど強いものはない。
駅そばのカフェへ行きたいとのことで、そこまでサポートしたが、わずか
400mほどのサポートを終えた私はふらふらになっていた。
今もペンを持って字が書けない。手が震えてしまう。たったあれだけの
ことで、体力を全部使ったかのように、この老いぼれはくたばっている。
パラリンオリンピックを観ていて、いつも感動する。「乗り越えている強さ」
を感じるからだ。かれにも、乗り越えている強さを感じた。