中原武志のブログ

生きていくうえでの様々なことを取り上げます

面白い文章の紹介(4)

向田邦子編(2)

 「食らわんか」からはじまったから言うわけではないが、どうも私は気取った食べ物は苦手である。 ほかの所では、つまり仕事のほうや着るもの、言葉遣いなどは、多少自分を飾って、気取ったり見栄をはったりして暮らしている。せめてうちで食べるものぐらいは、フォアグラに襟を正したり、キャビア様に恐れ入ったりしないで食べたい。

 ついこの間、半月ばかり北アフリカの、マグレブ三国と呼ばれる国へ遊びに行った。 チュニジアアルジェリア、モロッコである。 オレンジとトマトが美味しかったが、羊の匂いと羊の肉にうんざりして帰ってきた。

 日本に帰って、いちばん先に作ったものは、海苔弁である。

まずおいしいごはんを炊く。

 十分に蒸らしてから、塗りのお弁当箱にふわりと三分の一ほどたいらにつめる。かつお節を醤油でしめらせたものを、うすく敷き、その上に火どって八枚切りにした海苔をのせる。これを三回くりかえし、いちばん上に、蓋にくっつかないよう、ご飯粒をひとならべするようにほんの少し、ごはんをのせてから、蓋をして、五分ほど蒸らしていただく。

 もったいぶって手順を書くのがきまり悪いほど単純なものだが、私はそれに、肉のしょうが煮と塩焼き卵をつけるのが好きだ。肉のしょうが煮といったところで、ロースだなんて上等な所はいらない。コマ切れでいい。ただし美味しい肉を扱っている、よく売れるいい肉やのこま切れを選ぶようにする。

 醤油と酒にしょうがの千切りをびっくりするぐらい入れてカラリと煮あげる。

塩焼き卵は、うすい塩味だけで少し固めのオムレツを、卵一個ずつ焼き上げることもあるし、同じものを、ごく少量のだし汁でのばして、だて巻き風に仕上げることもある。 後略。