向田邦子編(3)
(前略)
風邪気味のときは、葱雑煮と言うのをこしらえる。
この時の葱は、一人前3センチから5センチはほしい。薄く切り、布巾に包んで水にさらす。このさらし葱を、昆布とかつお節で丁寧に取った出汁(塩、酒、薄口しょうゆで味を調える)にご飯を入れ、ご飯つぶがふっくらとしたところで、このさらし葱を放り込み、ひと煮立ちしたところで火を止める。とめ際に、大丈夫かな?と心配になるぐらいのしょうがのしぼり汁を入れるのがおいしくするコツである。
ピリッとして口当たりがよく、食が進む。体があたたまって、いかにも風邪に効く、という気がする。風邪をひくと、私はおまじないのようにこの葱雑炊を作り、あたたまって早寝をする。たいていの風邪はこれでおさまってしまう。
十年ほど前に、少し無理をしてマンションを買った。
気持ちのどこかに、うちをみせたい、見せびらかしたいというものが働いていたのだろう、あのころの私はよく人寄せをして嬉しがっていた。
いまほど仕事も立て込んでいなかったから、まめに手料理もこしらえ、これも好きで集めている瀬戸物をあれこれ考えて取り出し、楽しみながら人をもてなした。
もてなした、と言ったところで、生まれついての物臭さと、手抜きの性分なので、書くのもはばかられるほどの、献立だが、そのころから今にいたるまで、あきたかなと思うと、また復活し、結局わが家の手料理ということで生き残っているものは、次のものである。
若芽の油いため
豚鍋
トマトの青じそサラダ
海苔吸い
書くとご大層にみえるが、材料も作り方もいたって簡単である。