第3回
正式に結婚して結ばれて生まれてきた子供も、ちょっとした
出会いから男女が結ばれて新しい命を誕生させた場合も、一人の
命ということに、何ら変わりはありません。
最近は「未婚の母」が多くなっていますが、未婚の母たちが、どんな
出会いであれ、子供に恵まれたということは幸せだと、私は思っています。
命をこの世に誕生させたことを、誇りに思うべきでしょう。
そのことを理解せずに、子供を葬り去る人がいることに悲しみを感じます。
結婚した夫婦が別れてしまおうが、未婚の母から生まれようが、この世に
生を受けた一人の人間は、その場所で生きて、その場所で花を咲かせて
いくことができるのです。
母が晩年になって(80歳ちょっと前だったかな)私にこう言いました。
「お前をわたしが育てなくてよかったなと思っている。私が育てていれば、
おまえは、今のように立派な人にはなれなかったとおもう」と。
それを聞いたときは、父の酒癖の悪さに疲れ果て、2歳の私を捨てて出て
行った言いわけなのかなと思っていたが、私自身が82歳を超えた今になって、
母の一言が心にしみるようによくわかる。
何事も順調に行けば「幸せ」が掴めるというわけではない。
順調の中にはたぶん落とし穴があるのだろう。
母が出て行って、叔母にその後の3年余りを育ててもらった。そして、
十分な愛情をもらったことが、今の私を支えているのだと思うと、順調で
生きることの不幸せだってあるように思えてくる。
わたしは、いまがとても幸せだと思っているので、これまで辿ってきた
崖っぷち人生には、それなりに意味のあるものだったのだと考えています。