中原武志のブログ

生きていくうえでの様々なことを取り上げます

おいしい文章の紹介(15)

 高峰高峰秀子著「おいしいお話」の中から、選んで紹介しています。
   山田風太郎編(3)
 雑炊とは兄弟のような食い物だが、汁かけ飯というやつも時々はウマいものだ。これはCクラスの食い物だとつつしむところもあるので、このごろはあまりやらないけれど、それでも味噌汁がホウボウとかカワハギなどの白身の魚をダシにつかったものだと、つい汁かけ飯にすることがある。鮭の酒粕汁が大好物であった。
 酒粕汁といえば、映画の名匠小津安二郎酒粕汁が大好物であった。小津は一種の美食家で、男の日記には珍しく毎日の食事をわりに丹念に日記に残しているが、その昭和三十年の記録に、
[一月二十二日]
朝、酒粕汁を拵える。美味。
[二月一日]
酒粕にて夕めし。
などとある。膨大な日記をいいかげんにひらいて見かけたものだが、相当な頻度である。
 小津がめいさくといわれる「東京物語」を送り出したのは昭和二十八年のことだから、昭和三十年といえばアブラの乗り切った盛りだが、独身であったはずの彼はみずから鮭の粕汁を作ったのだろうか。
 ついでに言えば谷崎潤一郎も、黒砂糖を酒粕でくるんで焼いた「酒粕まんじゅう」が大好物であったという。材料から見るとBクラスの菓子に思えるが、ちょっと食べてみたい気がする。
 さて、酒粕汁の汁かけ飯がウマいとは、右に書いたとおりだが、それであるとき、それならはじめから粕汁の雑炊を作ったらさぞウマいだろうと思いついた。で、作らせてみた。すると、これが全然ウマくない。ウマくないどころか泥のようなD級のしろものになってしまった。
 次にこれは成功例の話。
 わが家で愛用する料理に「チーズ肉トロ」と称するものがある。例のとろけるチーズを薄い牛肉で握りこぶしの半分に包み、サラダ油で焼いたもので、これをナイフで切って食う。正しくは肉のチーズトロというべきだろうが、ごろの関係で「チーズの肉トロ」と呼んでいる。
 材料が上等だが、二、三分で出来る料理だし、高級レストランなどではまず出てこないだろうから、やっぱりB級グルメの一種といっていいかも知れない。