中原武志のブログ

生きていくうえでの様々なことを取り上げます

面白い文章の紹介(3)

私が書いたものではなく、いろんな方が書いた、面白い話、

役に立つ話などを少しだけ紹介していこうと思っております。

 名女優でもあり、名監督の松山善三さんの妻でもあった高峰秀子さんが

筑摩書房から「おいしいおはなし」というのを書いておられます。 

その中には多くの知人友人が書かれたものが収められています。

今日は、その中から向田邦子さんの記事を紹介します。(1)

 「くらわんか」

 親譲りの”のぼせ性”で、それが美味しいとなると、もう毎日でも食べたい。

 新らっきょうが八百屋さんにならぶと、早速買い込んで醤油漬けを作る。

わが家はマンションでベランダも狭く、本式のらっきょう漬けができないので、ただ洗って水気を切ったものを、生醤油に漬け込むだけである。

 2日もすると食べごろになるヵら、3つ4つ取り出してごく薄く切って、お酒の肴やご飯の箸休めにするのである。化学調味料をかけたほうがおいしいという人もいるが、わたしはそのままでいい。

 外側があめ色に色づき、内側に行くほど白くなっているこの新らっきょうの醤油漬けは、毎年盛る小皿も決まっている。大事にしている「くらわんか」の手塩皿である。

 「くらわんか」というのは、食らわんか、のことで、食らわんか舟から来た名前である。

 江戸時代に、伏見・大坂間を通った淀川を上下する三十石の客船に、小さいそれこそ亭主が櫓をこいで、女房が手作りの飯や総菜を売りに来た舟のことらしい。「食らわんか」と声をかけ、よし、もらおうということになると、大きい舟から投げ下ろしたザルに、厚手の皿小鉢をいれ商いをしていたらしい。言葉使いも荒っぽく、どうやら潜りだったらしいが、大阪城を攻めた時に徳川家康方の加勢をして、なにか手柄があったらしく、そんなことからお目こぼしにあずかっていた、とものの本に書いてある。

 この食らわんか舟は、めしや総菜だけではなく、もっとおしろい臭い別のものも「食らわんか」というようになったというが、そっちのほうは私には関係がない。 この連中が使った、落としても割れないような、丈夫一式の、やきものが、くらわんか茶碗などと呼ばれて、かなりの値段が付くようになってしまった。 汚れたような白地に、藍のあっさりとした絵付けが気に入って、五枚の手塩皿は、気に入った季節のものを盛るときに、なくてはならないいれものである。